「未来の予定についての記憶」を鍛える、VRを使った研究
未来の予定に関する記憶
「明日は10時にショッピングモールで〇〇ちゃんと待ち合わせて映画館へ行く」など、未来の予定に関する記憶を「展望記憶」といいます。展望記憶は、年を重ねることによる脳の衰えや交通事故などによって脳が損傷されることで、その機能が低下する可能性があります。その結果、大切な約束を忘れたり、薬を飲み忘れたり、火を消し忘れたりといったことが頻繁に起これば、日常生活に大きな支障をきたします。神経心理学という学問分野では、こうした展望記憶のメカニズムを解明して、どのようにすれば記憶力を維持・改善できるかを研究しています。
VR技術を使って
展望記憶を鍛えるためには、「記憶の技」を習得することが重要です。記憶の技とは、例えば歴史の年号を語呂合わせで覚えることもその一つです。展望記憶に関する研究では、VR(仮想現実)を使ったトレーニング方法の開発が進められています。高齢者になじみのある日本風家屋や商店街といった環境をデジタル技術で再現し、VRゴーグルを着用した被験者が「食事のあとに薬を飲む」「薬屋の前を通ったら必要な薬を買う」といったシミュレーションを行います。デジタル仮想空間というリアリティのある環境の中で将来の行動をイメージ・シミュレーションするこのトレーニングによって、展望記憶に関する能力が一定程度向上し維持できることがわかっています。
認知機能の維持回復に
また、トレーニング中の被験者の行動はすべてデータとして記録され、これを多数収集して分析することで、展望記憶のメカニズムが明らかになります。こうした研究は心理学だけでなく、VR技術を含む工学や医療統計学といった異なる学問分野の融合によって進められています。未解決の課題もありますが、人生100年時代における認知機能の維持回復に寄与する重要な研究として期待されています。
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