冤罪はなぜ起きるのか? そのプロセスを研究する

最大の人権侵害
刑事訴訟法とは、犯罪の捜査から裁判に至るまでの一連の手続きに関する法律です。犯罪が起こると警察が捜査を行い、その証拠をもとに検察が起訴か不起訴かを決定し、裁判所が裁判を行って刑罰を言い渡します。この手続きの中で、誤った有罪判決を出してしまう冤罪(えんざい)がたびたび起こっています。冤罪は最大の人権侵害であり、本人にも周囲の人々にも大きな不幸を呼び込みます。こうした悲劇を繰り返さないためにも、冤罪が発生するプロセスについての研究は極めて重要です。
死刑判決が無罪に
冤罪の代表的な例として知られているのが袴田事件です。1966年に起きたみそ製造会社の一家四人を殺害した罪で死刑判決を受けた袴田巌さんは、再審によって2024年に無罪が確定するまで48年間も刑務所に入れられていました。警察は、従業員かつ元プロボクサーという経歴の袴田さんを最初から犯人だと思い込み、1日12時間以上にわたる過酷な取り調べを行いました。また証拠として使われた衣類も、事件から1年以上たってからみそだるの中で発見されましたが、これも捜査機関が捏造(ねつぞう)したものだと言われています。
冤罪防止に向けて
日本の刑事裁判の事実認定では、裁判官が証拠の信用性を自由に判断する「自由心証主義」が取られています。裁判官は警察や検察に対しては性善説を取り、捜査の実態もわからないまま、彼らの言い分や証拠を素直に受け取る一方で、被告側の主張は言い訳をしていると見なしがちです。ところが、再審で無罪判決が出るような場合には一転して、警察や検察側が批判されていきます。このように、状況が異なれば同じ証拠や証言に対するとらえ方も変わってしまうことから、自由心証主義が決してすべてから自由ではないことがうかがえます。
法学では、法律の解釈や最新の制度に関する研究を行うのが主流ですが、こうした理論化だけでなく、現実の苦しんでいる人々にも目を向けて、冤罪を防止するための提言も行っていく必要があります。
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久留米大学 法学部 法律学科 特任教授 吉弘 光男 先生
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