講義No.15617 法学

冤罪はなぜ起きるのか? そのプロセスを研究する

冤罪はなぜ起きるのか? そのプロセスを研究する

最大の人権侵害

刑事訴訟法とは、犯罪の捜査から裁判に至るまでの一連の手続きに関する法律です。犯罪が起こると警察が捜査を行い、その証拠をもとに検察が起訴か不起訴かを決定し、裁判所が裁判を行って刑罰を言い渡します。この手続きの中で、誤った有罪判決を出してしまう冤罪(えんざい)がたびたび起こっています。冤罪は最大の人権侵害であり、本人にも周囲の人々にも大きな不幸を呼び込みます。こうした悲劇を繰り返さないためにも、冤罪が発生するプロセスについての研究は極めて重要です。

死刑判決が無罪に

冤罪の代表的な例として知られているのが袴田事件です。1966年に起きたみそ製造会社の一家四人を殺害した罪で死刑判決を受けた袴田巌さんは、再審によって2024年に無罪が確定するまで48年間も刑務所に入れられていました。警察は、従業員かつ元プロボクサーという経歴の袴田さんを最初から犯人だと思い込み、1日12時間以上にわたる過酷な取り調べを行いました。また証拠として使われた衣類も、事件から1年以上たってからみそだるの中で発見されましたが、これも捜査機関が捏造(ねつぞう)したものだと言われています。

冤罪防止に向けて

日本の刑事裁判の事実認定では、裁判官が証拠の信用性を自由に判断する「自由心証主義」が取られています。裁判官は警察や検察に対しては性善説を取り、捜査の実態もわからないまま、彼らの言い分や証拠を素直に受け取る一方で、被告側の主張は言い訳をしていると見なしがちです。ところが、再審で無罪判決が出るような場合には一転して、警察や検察側が批判されていきます。このように、状況が異なれば同じ証拠や証言に対するとらえ方も変わってしまうことから、自由心証主義が決してすべてから自由ではないことがうかがえます。
法学では、法律の解釈や最新の制度に関する研究を行うのが主流ですが、こうした理論化だけでなく、現実の苦しんでいる人々にも目を向けて、冤罪を防止するための提言も行っていく必要があります。

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久留米大学 法学部 法律学科 特任教授 吉弘 光男 先生

久留米大学 法学部 法律学科 特任教授 吉弘 光男 先生

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メッセージ

法律と聞くと、多くの人は難しいものだと感じるかもしれません。しかし、法律は決して難しいものでも堅苦しいものでもありませんし、ルールを知ることでより一層その面白さを味わうことができるようになります。高校生のうちから人とたくさん話をしたり聞いたりすることで、コミュニケーション能力を高めるよう心掛けてください。またアンテナを広く張り、さまざまなことに好奇心をもつのも重要です。アンテナを張っていれば発信力も出てきますし、正しい情報取捨選択する力もついていくでしょう。

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歴史と伝統を積み重ねた久留米大学には、文学部・人間健康学部・法学部・経済学部・商学部・医学部の6学部14学科、大学院4研究科そして18の研究所・センターなどがあります。「個性尊重、資格取得、地域貢献、国際感覚の育成、高度情報化への対応」を重視し、多くの優秀な教授陣が学生一人ひとりの能力を伸ばしながら、社会への適応力を育み、ゼミナールを中心とした授業で、教員と学生の触れ合いを大切にしています。文系・医系の両キャンパスに新たに教育・研究棟が完成し教育環境もさらに充実しました。