犬の寿命を延ばす 超音波による細やかな心臓の検査

病状に対するより細かい診断基準
犬の心臓病は珍しい病気ではなく、特に心臓の弁が閉じにくくなって血液が逆流してしまう症例がよくみられます。血液が逆流すると、全身にいきわたる血液が減ってしまうので、それを補おうと心臓は拡大していきます。そのため、一般的に犬の心臓病の治療は、心臓の拡大がなければ治療対象外、拡大があれば強心剤を使用するというように、心臓の大きさを基準に行われています。しかし、心臓の拡大がなくても長く生きられない犬や、反対に拡大していても症状が緩やかな犬もいて、心臓の大きさと重症度が必ずしも一致していません。適切な治療で犬の寿命を延ばすために、より細やかな診断基準が求められています。
心臓を知るために腎臓を見る
そこで着目されているのが腎臓との関係です。血液の循環という点で心臓と腎臓は密接な関係にあり、これまでの診療データなどから、腎臓の状態の悪さが心臓病の重症度と関わっていることがわかってきました。腎臓の状態は超音波(エコー)検査で詳しく調べることができます。血液検査では腎臓がかなり悪くなるまで数値が出ないのに対し、超音波検査では腎臓の中の血液の流れの速さや変化を測定することで、腎臓のダメージを早い段階で見つけることが可能です。
超音波による詳細な検査は治療の判断にも役立ちます。腎不全などの腎臓病の治療には点滴が使われますが、点滴は心臓に負担がかかります。反対に、心臓病に使われる利尿剤は腎臓によくありません。心臓と腎臓の両方が悪い場合、どちらの処置を行うかは経験に基づいて判断されるのが現状です。超音波検査で腎臓の状態を詳細にみれば、例えば腎臓がむくんでいるので利尿剤を使うというように、客観的な判断が可能になります。
重症度に合わせた最適な治療
これまでの研究で、腎臓の状態から心臓病の重症度を評価する指標が確立されつつあります。その指標に応じて、心臓病の犬の寿命を延ばすためにどのような治療が最適であるかが、これからのテーマです。
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先生情報 / 大学情報

岩手大学 獣医学部 共同獣医学科 准教授 森田 智也 先生
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