人間とイモリの共通点とは? 脂肪細胞を再生医療に活用する研究

再生されるイモリの足
イモリは足が切断されても3週間ほどで元通りになる、再生能力の高い生き物です。切断面では筋細胞に「脱分化」という現象が起きています。脱分化とは、細胞の役割が決定する前の未成熟な状態まで、時間を巻き戻すような現象です。脱分化した細胞が骨や血管、神経などの失われた部位を再生するため、足が元に戻るのです。こうした現象はイモリや魚類などに見られますが、再生医学の研究によって、細胞の脱分化は人間でも可能だということがわかりました。
脂肪を再生医療に活用
再生医療に活用できると明らかになったのは、「脱分化した脂肪細胞(DFAT)」です。2020年からは臨床研究も始まり、安全性や効果が確認されはじめています。まず対象になったのは、動脈硬化で足の血管が詰まり、強い痛みが起こったり、粘膜の奥まで深く削れたりしてしまう「包括的高度慢性下肢虚血」の患者です。患者の腹部から10mlの脂肪組織を採取して、その脂肪細胞から培養したDFATを、血流の悪い筋肉内に注射するという治療が行われました。治療後52週にわたって経過が観察された結果、重度の痛みや削れがなくなり、血流も改善されました。
DFATのメリット
脂肪組織を用いた再生医療はすでに実用化されたものがあり、それにはMSCという幹細胞が使われています。ただしMSCは脂肪組織の中に1%ほどしか含まれないため脂肪の採取量が多くなることや、ほかの細胞との分離が難しいことなどが課題でした。また、患者の年齢や基礎疾患によっては、再生医療に使える品質に届かない場合もあります。
一方でDFATは、脂肪組織の約30%を占める成熟脂肪細胞を原料とするため、少量の脂肪からも作れ、ほかの細胞との分離も簡単です。品質も患者の状態に左右されません。そのため患者の体への負担が少なく、低コストで安定した治療が行えると期待されています。変形性膝関節症、歯周病、脊髄損傷などの再生医療にも、MSCの代わりにDFATを使おうと実験や臨床研究が行われています。
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