過酷な環境で生きる古細菌の酵素から、生命進化の謎に迫る!

酵素の研究を古細菌で
消化吸収、代謝などの生命活動には、さまざまな酵素が関わっています。必要な物質を合成したり分解したりすることで、生命を維持しているのです。中でも、「古細菌」の酵素の研究が注目を集めています。
すべての生物は、主に原始的な環境に生育する「古細菌」、バクテリアとも呼ばれる「真正細菌」、動植物を含む「真核生物」の3つの領域に分けられます。古細菌は、火山周辺など100度以上の高温や、強アルカリ性、強酸性を示す過酷な環境で生きるものが多くいます。また、細胞膜の膜脂質の構造が、他の領域の生物と異なるのが特徴です。
特殊な酵素と合成経路
生物の細胞膜は、水になじむ分子となじまない分子で構成されています。この水になじまない分子が、古細菌以外は「脂肪酸」であるのに対し、古細菌は「イソプレノイド」と呼ばれる化合物群なのです。
イソプレノイドは炭素5個の単位がつながった基本構造を持つ、幅広い天然有機物の総称で、野菜の色素「カロテノイド」もその一部です。そのため、古細菌以外の生物もこの基本構造を合成する酵素を持っています。一方、古細菌からはその他の生物とは異なる新しい酵素、合成経路が発見されました。また、この新しい酵素によって、カロテノイドをこれまでとは異なる経路で合成できることも確認されました。この研究成果は、医薬品や工業製品などの生産にも応用できる可能性があります。
合成経路からひもとく生物の進化
さらに、イソプレノイド合成の経路は、古細菌と真正細菌とでは全く異なりますが、真核生物の経路は古細菌に近いことがわかりました。また、古細菌の酵素の中には、酸素に弱いなどの特徴があることもわかり、真核生物は進化の過程で酸素に強い特徴を獲得したのではないかと考えられます。
はるか昔、古細菌と真正細菌の融合により、真核生物が生じたと考えられているのですが、このような古細菌の酵素の研究により、生物の進化の歴史をさらに解明できる可能性があると期待されています。
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