冤罪のない社会をつくるには

「冤罪」という人権侵害
冤罪(えんざい)とは、無実の人が犯罪者と疑われたり、有罪判決を受けたりしてしまうことです。日本の法律では、有罪になると死刑や拘禁刑、罰金などの刑罰が言い渡される可能性があります。最悪の場合、国が無実の人の命を奪ってしまうこともあり得るのです。冤罪はまさに、国が行い得る最大の人権侵害の一つです。冤罪事件の代表的な例として「袴田事件」があります。1966年に強盗殺人放火事件で逮捕・起訴された袴田巌さんは、死刑判決を言い渡されました。袴田さんは、死刑確定者として長い年月拘禁され、ようやく2024年に再審(やり直しの裁判)で、無罪判決が言い渡されました。
人権保護や再審請求の動き
「警察官や検察官の過酷な取り調べで自白して有罪になった」「非科学的な証拠で有罪になった」と、現在も戦っている多くの事件があります。冤罪は、めったに起こらない出来事ではないのです。冤罪事件への反省や支援者の活動によって、人権を保護すべきだという動きには進歩も見られます。たとえば、2010年に大阪地裁が無罪にした「村木事件」では、検察官による証拠のねつ造が明らかになりました。その結果、取り調べのありかたが見直され、2016年に刑事訴訟法が改正されました。これによって、取り調べの録音・録画が一部の事件で義務づけられました。
黙秘権の効力で人権を守る
しかし、日本の刑事事件はいまも「人質司法」と呼ばれる状況です。黙秘をしたり否認したりすると、弁護人の立ち会いもなく長時間の取り調べを受けさせられ、身体拘束が長期間続きます。アメリカでは1966年に出た「ミランダ判決」によって、逮捕の際に、黙秘権や弁護人の援助を受ける権利などが警察官から必ず告げられます。黙秘権を行使すれば取り調べを終わらせられますし、取り調べ中も弁護士が立ち会えます。
冤罪事件は無実の人を処罰するだけでなく、真犯人を取り逃す「二重の不正義」です。冤罪事件を検証し、二度と同じ過ちを起こさないように、司法の改革が求められています。
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先生情報 / 大学情報

甲南大学法学部 法学科 教授笹倉 香奈 先生
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