世界一細い人工血管! ダチョウ由来のバイオマテリアル

糖尿病による足の切断を防ぐ
現代の医療では、「バイオマテリアル」と呼ばれる人工関節や人工血管などで体の不具合を修復する治療法も一般的になってきました。その中で、糖尿病によって詰まった足の血管を人工血管に置き換える研究が行われてきました。誰もがかかり得る糖尿病ですが、悪化すると足の血管が詰まり、膝から下を切断しなければならないという深刻な事態を招きます。
世界で最も細い人工血管
人間のひざ下の血管は、2mmという細さです。合成繊維や合成樹脂でできた従来の人工血管は内径6mm程度が限界なので使えませんでしたが、サイズが似ている食用ダチョウの首の頸動脈(けいどうみゃく)を使い、世界で初めて、2mmという細さの人工血管が開発されました。
人間を含む動物の血管は、細胞成分が2割程度で、管の形状を保つタンパク質成分が8割程度でできています。ダチョウの頸動脈から細胞を取り除いて、その管状の構造だけを残します(脱細胞化組織)。その内面に特殊なペプチド(アミノ酸が29個つながった物質)を並べて移植すると、本来の血管構造が再生するのです。また、食用ダチョウは安定的にたくさん入手できるため、多くの人を助けるために有用です。
血管内で起きる現象から得たアイデア
血管の内側は、内皮細胞の層で覆われています。完成した人工血管の画期的な点は、この細胞の層を素早く再生することに成功したことです。血管の内側につけた特殊なペプチドは、血液中を流れる内皮細胞のもとになる細胞にくっつく性質があることが知られていました。しかし逆転の発想で、このペプチドを血管の内側にくっけると、血液中を流れている細胞を捕まえることができると期待され、実際に細胞の捕捉とその後の内皮細胞層の再生に成功したのです。
この人工血管は、人体に使っても安全であることや、動物実験で高い効果があることが確認されており、人体への応用をめざしている段階です。将来的には、けがによる血管の損傷や、心筋梗塞など他の部位の血管の病気にも応用できると期待されています。
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公立小松大学保健医療学部 臨床工学科 教授山岡 哲二 先生
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