ナノテクノロジーにも役立つ液体金属の構造研究

ナノテクノロジーにも役立つ液体金属の構造研究

液体が沸騰しなくなる臨界温度とは

金属には電気が通じるという性質があります。ところで、金属も水と同じように高温高圧にすると膨張して気体になりますが、気体になると絶縁体になります。こうなると非金属です。
では、金属から非金属になる(転移する)境目はどういう状態なのでしょうか。物質は、ある一定の圧力・温度に達して、液体と気体の密度が同じになると沸騰がおきなくなります。この温度を「臨界温度」と言います。金属の中で最も臨界温度が低い水銀の場合、1600気圧以上、1478℃が臨界温度です。この境目では、液体と気体がせめぎ合って大きく揺らいでいます。

問題は金属が絶縁体になる時の原子構造

物質が金属から非金属に転移する境目は、臨界温度の近くにあると考えることができます。問題は、その時の原子構造です。金属では、原子が電子を放出してイオンと電子に分かれています。この電子が自由に動き回ることで電気が通じます。気体になると、イオンと電子が結合するため絶縁体になるのです。
気体は絶縁体なので、液体の側に中間の状態があることが予測されます。原子の構造を明らかにするには、上のようなイオンと電子の関係だけでなく、液体金属のイオンの動きを調べる必要があります。

ナノテクノロジーの技術発展に寄与する研究

実は、液体中のイオンはお互い無関係に動いているわけではなく、周りのイオンが動いてできた隙間を使いながら移動します。このようなイオンの集団運動により、イオンが密に集まった部分と疎になった部分が交互に現れるため、イオン間距離程度の波長をもつ音波が現れます。この音波を研究することにより、イオン間にはたらく力や電子が及ぼす影響について調べることができます。
この研究はナノテクノロジーに関係しています。ナノテクノロジーで物質の機能をデザインするためには原子やイオンにはたらく力をもっと理解する必要があります。また液体中のイオンの動きがわかれば、液体から機能的な結晶を成長させる時にとても役に立ちます。

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広島大学 総合科学部 総合科学科 自然探究領域 教授 乾 雅祝 先生

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