「ないはずの腕や脚」が痛む? 幻肢痛と最新リハビリ技術

「ないはずの腕や脚」が痛む? 幻肢痛と最新リハビリ技術

幻肢痛とは

事故や病気で腕や脚を失った人が、すでにない手足の存在を感じることがあります。これを「幻肢」と呼びます。そして、幻肢に痛みを感じる「幻肢痛」という現象がみられます。不思議なことに、幻肢を「自由に動かせる」と感じる人は、あまり痛みを訴えません。一方で、「動かそうとしても動かない」「こわばっている」と感じる人ほど、強い痛みを覚える傾向があります。手足がなくなっても、それを動かしていた脳の領域は残っているため、こうした現象が起きると考えられています。ただし、幻肢が動かないと痛みが出るメカニズムは解明されていません。

ないものへのリハビリ

この不思議な痛みを和らげるためのリハビリがあり、古くからある方法が「ミラーセラピー」です。体の中央に鏡を置いて、失われた腕の位置に健常な腕の像が映るようにし、失われた腕が「ある」ように見せるのです。健常な手を動かすと鏡の中の手も動きます。脳はその錯覚にだまされて、「幻肢が動いた」と感じて痛みが軽くなることがあります。
最近ではこの方法をさらに進化させて、VRを使ったリハビリも行われています。赤外線カメラで健常な腕の動きを読み取り、それをもとに仮想空間にもう一つの腕を表示します。そして、その腕でゲームをすることで、「幻肢を自由に動かせた」という感覚を生み出すのです。ミラーセラピーよりも細かい動きを再現できるため、より高い効果が期待されています。

まひの人への応用

さらに幻肢痛の研究は、脳への直接的なアプローチへと進んでいます。リハビリ中に脳波を測定することで、脳のどの領域が関わっているかを特定します。VRだけでは効果が出にくい患者には、そこに電気刺激を加える方法と組み合わせることでリハビリ効果を高めるのです。
こうしたリハビリは、脳卒中などで手足がまひした人への応用も期待されています。「腕の動かし方を忘れた」と感じる患者に対し、VRを使って過去の動きを思い出してもらうことで、「もう一度動かす感覚」を取り戻す手助けになるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

畿央大学 健康工学部 健康イノベーション学科(仮称) ※2026年4月開設予定 准教授 大住 倫弘 先生

畿央大学健康工学部 健康イノベーション学科(仮称) ※2026年4月開設予定 准教授大住 倫弘 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

脳科学、リハビリ、実験心理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

脳は非常に不思議であり、今では脳が起こすさまざまな現象を定量的に測定できる時代になっています。例えば、脳の活動を解析して、人が見ているものや考えていることを把握する技術が進んでいます。脳の機能や情報を解析して利用する「ブレインテック産業」は急速に成長していて、アメリカなどではかなり好待遇な企業も出ているようです。健康長寿社会に向けて、今後も脳の研究はますます活発になるでしょう。人々の生活の質を向上させる新たな技術が開発されることが期待されています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

畿央大学に関心を持ったあなたは

「健康」と「教育」分野のプロを育てる実学重視の大学です。多くの学生が人と関わる仕事を選び、資格・免許取得を目指していることから、大学全体がアットホームな雰囲気の中、学習に打ち込める環境となっています。人間の多面的な営みを科学的に理解し、社会における健康を学ぶ健康科学部では、学科の枠を越えてコラボレートした授業や実習でチーム医療を学べます。現代教育が抱える問題を解決できる力を養う教育学部では、教育実習以外に学校インターンシップなどの実践の場を多く用意しています。