進化する重粒子線治療でがんを根治!

重粒子線治療とは
がん治療の三本柱は、手術、薬物治療、放射線治療です。「光のメス」と呼ばれる放射線治療は手術に並ぶ根治的な治療法で、特に手術を施せない高齢者にとって重要な役割を果たしています。
現在行われている放射線治療は90%以上がX線によるものですが、光の一種であるX線は体を透過する性質を持つため、がんの前後にある正常な臓器にも被ばくさせてしまいます。これに対して、日本が最先端を走る「重粒子線治療」は炭素のイオンをがんに照射するものです。体の入り口付近ではエネルギーが低く、がんに到達して止まった瞬間にエネルギーがピークを迎え、その後ゼロになる「ブラッグピーク」という特性があります。つまり正常組織への被ばくを抑えながらがん細胞を強力に殺せる治療法なのです。
重粒子線治療の仕組み
放射線で細胞が死ぬのは、放射線が通ると「電離」という現象が起きてDNAが傷つくからです。X線の場合は照射すると電離が空間に均一に起きるのに対し、重粒子線は炭素イオンの通り道に集中して超高密度の電離が起きるため、DNA鎖を2本とも切断してがん細胞の致死率を上げることが可能です。超高密度の電離は幅1ミリ程度なので、治療ではいくつもの炭素イオンをがんの端から順番に打ち込み、数センチの大きさのがん全体を網羅できるように照射します。この電離密度を「線エネルギー付与(LET)」といいます。
治療効果のさらなる向上へ
現在、重粒子線治療では放射線の線量だけを基準にして処方されていますが、がんの中のLETの分布は不均一であることがわかってきました。特にがんの中心部ではLETが低くなる傾向にあり、これはがんの中心部は放射線が効きにくいことを意味します。LETの不均一さが治療成績に影響を与えているとすれば、LET分布を適切に調節した治療計画や技術の開発により、治療成績の改善が期待できます。
すでにX線を超える効果が認められている重粒子線治療ですが、さらなる効果の向上が目標とされています。
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