合唱が育てる、声だけじゃない心の成長

音楽の授業で生まれる変化
合唱練習で「なんでみんな一生懸命やってくれないの?」と悩んでいた女子生徒がいました。1年後、彼女は「音楽が得意じゃない子もいる。だから、どうやって練習を進めればいいかを考えるようになった」と振り返りました。
合唱の授業やコンクールは、歌の技術だけでなく、考え方や人との関わり方にも変化を生みだします。一人一人が違う声を持ち、一つのハーモニーをつくる中で、他者理解や協調性が育ちます。しかし、音楽教育では「正しく歌うこと」に重きが置かれ、こうした心の成長や一人一人の学習に対する認識の変化は見過ごされがちです。音楽の持つ、成長を促す力をより引き出すには、どんな教え方・学び方が効果的なのでしょうか。
耳を育てる授業
「コダーイ・アプローチ」は、ハンガリーの音楽教育法です。日本の授業では、まず楽譜が配られることが多いですが、ハンガリーでは保育園でわらべ歌をたくさん歌い、手の動きで音の高さを表すなど音の感覚を身につけた後に楽譜が導入されます。これを日本の小学校で取り入れると、子どもたちの歌声が自然に美しくなりました。特別に発声を訓練しなくても、耳で音をとらえ、自分と周囲の声を聴きながら歌う力が育ち、調和の取れたハーモニーが生まれたのです。
音楽に必要なのは、「聴く力」です。他者と音を合わせる中で、人と調和する力も育ちます。
音楽が育てる「自分の物差し」
聴く力は、歌う場面だけにとどまりません。例えばSNSで何気なく押す「いいね」にも、自分の感性が関わっています。授業で音楽を聴き、「心地いい」「好き」と感じる体験が、ものの見方や価値観の基礎になります。音楽を通じて「なぜ好きなのか」を言葉にし、感想を共有するうちに、自分だけの「いいね」の物差しが育つのです。
聴く力は、他者の声に耳を傾ける習慣となり、日常でも思いやりや想像力を支える土台になります。音楽教育は、歌の技術や知識だけでなく、人間関係や自分らしい生き方を支える「生きる力」を育てる学びなのです。
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