誰も合成したことのない有機分子を作り出す!

電気を通す有機分子
有機分子は主に炭素原子を骨格とする化合物で、プラスチックのように通常は電気を通さない絶縁体として扱われてきました。しかし近年、導電性や光学応答性をもつ有機電子材料が発見されました。有機電子材料は、軽くて柔らかく、さらには分子レベルでの設計自由度が高いといった長所をもちます。この分子レベルでの設計の基礎となるのが、構造有機化学の研究です。まだ誰も合成したことのない分子を一から設計・合成し、その性質を調べることで、物質の新しい知見を得る最先端の探究が行われています。
スマートフォンを変える青色発光
有機電子材料を使用した製品の代表例が、有機ELディスプレイです。テレビやスマホに使われているこの技術は、赤・緑・青の三原色を組み合わせてさまざまな色を表現します。青色発光には、ほかの色に比べてより高い電圧が必要です。ところが、スマホに使われるリチウムイオン電池の電圧は3.7ボルト程度しかないため、できるだけ低い電圧で青色を光らせることが大きな課題です。最近、UC-OLEDと呼ばれる超低電圧で発光する有機ELが注目されています。高効率な青色発光を実現する有機分子の開発に挑戦した結果、ナフタレンジイミドという色素分子の構造改変を繰り返すことにより、次世代の有機EL技術への道を開きました。
予測できないから面白い
有機分子は、炭素や水素などの原子が複雑につながっていて、構造が少し異なるだけで、性質が大きく変わるのが特徴です。多くの材料開発では、過去の研究に機能向上のための分子設計指針をある程度見出すことができますが、UC-OLEDの材料開発には、予測に役立つ過去の知見がない難しさがあります。そのため、分子の形や大きさ、枝分かれの仕方などを少しずつ変えながら実験を繰り返して、地道に条件を探っていったのです。そうした試行錯誤の末に、低電圧でも明るく光る青色の材料が誕生しました。新しい機能を持つ分子を一から作り出し、予測できない世界を切り開いていくことが、有機化学の大きな魅力です。
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