「生きていること」を物理で理解する

「生きていること」を物理で理解する

物理的な数値で定義する

「生きている」とはどういうことでしょうか? 例えば、受精する前の未受精卵は、「生きている」と言えるのでしょうか? 哲学的にも思えるそんな疑問を、「ソフトマター物理学」の視点で測定した数値で答えようという研究があります。
ソフトマター物理学とは、細胞膜のように、固体と液体の中間の柔らかさを持つ物質の粘度や弾力、構造など物理的な特徴を調べる学問です。まずは人工的に作ったモデル細胞膜で実験を進め、徐々に実際の細胞に広げていき、何が「生きていること」を特徴づけているのかを解明するのがゴールです。

細胞膜の流動性を計測

細胞膜のベースは、リン脂質が二層になった脂質膜です。タンパク質やその他の分子が脂質膜に埋め込まれていて、お互いに作用しながら移動しています。細胞機能を担うタンパク質が、細胞膜上を漂って適切なタイミングで適切な場所に輸送されると細胞機能を起こします。タンパク質が細胞膜を漂う速度は、細胞膜の流動性によって決まります。このため、細胞膜はその複雑な構造をうまく使って流動性をコントロールし、機能発現のタイミングを制御していると考えられています。
細胞膜に見られる相分離構造を模倣したモデル細胞膜を使って、細胞膜の粘度(流動性)を測定したところ、相分離することで細胞膜の粘度が低くなることがわかりました。分子の移動速度を、細胞膜の相分離構造がコントロールしていることがわかったのです。

医師の経験知に頼らない診断を

このような研究が進んでいくことで、生き物がどのような物理現象を利用して生命活動を起こしているのかがわかってくると考えられます。
また現在は、細胞が健康か、あるいはがんなど病気の細胞かどうかは、医師の知識や経験がなければ診断できません。しかし、細胞の状態を物理的に測る技術が確立すれば、数値を見るだけで診断できる可能性もあり、医学への貢献が期待されています。

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先生情報 / 大学情報

東北大学 理学部 物理学科 准教授 佐久間 由香 先生

東北大学 理学部 物理学科 准教授 佐久間 由香 先生

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ソフトマター物理学、生物物理学

メッセージ

高校では受験に向けて、点が取りやすい得意科目に集中しがちですが、得意でない科目にも興味を持って勉強してほしいです。研究の最先端では、分野の垣根がなくなっていきます。私は高校時代に物理が得意だったので、それが専門になりましたが、今は、生物、医学、薬学、農学など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちと知識を持ち寄って共同研究を行います。そうした共同研究活動の中で新たな発見があったときには、大人なのにみんなで嬉しさのあまり飛び上がってしまうほどです。

東北大学に関心を持ったあなたは

建学以来の伝統である「研究第一」と「門戸開放」の理念を掲げ、世界最高水準の研究・教育を創造しています。また、研究の成果を社会が直面する諸問題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献して行きます。社会から知の拠点として人類社会への貢献を委託されている東北大学の教職員、学生、同窓生が一丸となって、「Challenge」、「Creation」、「Innovation」を合言葉として、価値ある研究・教育を創造して、世界の人々の期待に応えていきたいと考えます。