講義No.15539 数学

難しい問題をシンプルに! トロピカル幾何学の可能性

難しい問題をシンプルに! トロピカル幾何学の可能性

代数幾何学の課題

高校の数学で習う「図形と式」は、大学で代数幾何学と呼ぶ分野の入り口です。代数幾何学では式によって図形の性質を調べます。扱う図形は円や放物線といった平面図形だけでなく、3次元、4次元などに存在する複雑な図形もあります。しかし次元が高すぎて、また方程式の解が実数の世界に収まらない場合もあり、人間の目では全貌をとらえきれなくなってしまいました。代数幾何学では図形を式を用いて調べるためのさまざまな工夫を施しましたが、幾何学であるにもかかわらず図形の「かたち」を可視化できなくなるケースが生まれたのです。

1+1=1が成立する手法

代数幾何学の課題を克服できると注目されているのが「トロピカル幾何学」です。普通の計算をトロピカル代数というものに取り換えて、難しい問題をシンプルに解決しようというものです。トロピカル代数はブラジルの計算科学者が研究したのでこう呼ばれており、「足し算を最大値に、掛け算を足し算に」取り換えたものです。例えば1+1=1、1×1=2が成立するのですが、1次式+1次式=1次式、1次式×1次式=2次式と考えれば発想を理解しやすいでしょう。トロピカル代数は他にも数学や工学の分野でも活用されており、2004年ごろには代数幾何学にも活用できるのではないかと研究が始まりました。

トロピカル幾何学の強み

トロピカル代数を代数幾何学に用いる利点は、実数からはみ出す場合も次元を上げずに実数の範囲で図示できること、複雑に曲がった図形もまっすぐな図形の組合せに変換できて調べやすくなることです。もとの図形が円などの曲線なら、線分をつなげたグラフで表せます。単純化したのに精密な問題でも正しい解が得られるのがポイントで、実際にトロピカル幾何学を使って、複雑な手順が必要だった代数幾何学の定理をシンプルに再証明したり、未解決問題を解いたりする例が続々と登場しています。未開拓のテーマが多いこと、トロピカル代数は数学以外の分野にも応用できることから、研究の余地が多いにあります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京都立大学 理学部 数理科学科 准教授 小林 正典 先生

東京都立大学 理学部 数理科学科 准教授 小林 正典 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

代数幾何学

メッセージ

現代は外から情報が入ってきやすい時代です。しかし、受動的に浴びるのではなく、必要な情報を能動的に取りに行ける人になりましょう。自分自身と会話をしたり、本を読んで先人と対話したりする積み重ねが、あなたを成長させるはずです。そのためにもあなた自身の頭でとことん考える習慣をつけてほしいです。このとき紙に書いて計算するなど、手を動かしてみるとよいでしょう。キーボードで打ち込んだりスマホに入力したりするよりも知識が定着しやすくなり、アイデアが生まれやすくなります。

東京都立大学に関心を持ったあなたは

東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。