難しい問題をシンプルに! トロピカル幾何学の可能性

代数幾何学の課題
高校の数学で習う「図形と式」は、大学で代数幾何学と呼ぶ分野の入り口です。代数幾何学では式によって図形の性質を調べます。扱う図形は円や放物線といった平面図形だけでなく、3次元、4次元などに存在する複雑な図形もあります。しかし次元が高すぎて、また方程式の解が実数の世界に収まらない場合もあり、人間の目では全貌をとらえきれなくなってしまいました。代数幾何学では図形を式を用いて調べるためのさまざまな工夫を施しましたが、幾何学であるにもかかわらず図形の「かたち」を可視化できなくなるケースが生まれたのです。
1+1=1が成立する手法
代数幾何学の課題を克服できると注目されているのが「トロピカル幾何学」です。普通の計算をトロピカル代数というものに取り換えて、難しい問題をシンプルに解決しようというものです。トロピカル代数はブラジルの計算科学者が研究したのでこう呼ばれており、「足し算を最大値に、掛け算を足し算に」取り換えたものです。例えば1+1=1、1×1=2が成立するのですが、1次式+1次式=1次式、1次式×1次式=2次式と考えれば発想を理解しやすいでしょう。トロピカル代数は他にも数学や工学の分野でも活用されており、2004年ごろには代数幾何学にも活用できるのではないかと研究が始まりました。
トロピカル幾何学の強み
トロピカル代数を代数幾何学に用いる利点は、実数からはみ出す場合も次元を上げずに実数の範囲で図示できること、複雑に曲がった図形もまっすぐな図形の組合せに変換できて調べやすくなることです。もとの図形が円などの曲線なら、線分をつなげたグラフで表せます。単純化したのに精密な問題でも正しい解が得られるのがポイントで、実際にトロピカル幾何学を使って、複雑な手順が必要だった代数幾何学の定理をシンプルに再証明したり、未解決問題を解いたりする例が続々と登場しています。未開拓のテーマが多いこと、トロピカル代数は数学以外の分野にも応用できることから、研究の余地が多いにあります。
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