AIが支える命と創造性の未来

AIが支える命と創造性の未来

胎児の命を守るAI

胎児の健康状態を、AIが24時間体制でモニタリングする技術が開発されています。胎児の心拍波形を分析することで、酸素不足になっていないかを監視し、危険を察知するとアラームで知らせるシステムです。産婦人科医の不足が深刻な現在、この監視システムは医師の負担軽減と、より安全な出産の実現につながると期待されています。また、不妊治療の分野でも、内視鏡画像からAIが炎症の程度を診断したり、治療の成功率を予測したりする研究が進められており、医師の診断よりも高い精度を示すケースも出てきています。

子どもの創造性を育むAI

AIは教育分野にも新たな価値を生み出しています。例えば、子どもが描いた絵に対して、AIがその特徴を言語化し、「背景にもう少し色を加えると良い」などのアドバイスを生成するシステムがあります。これは、描きかけの絵から完成予想図を提示することも可能で、子どもたちは自分の発想とは異なる表現に出会い、創造力を広げるきっかけを得られます。特に小学校では、必ずしも美術の専門知識を持つ教員が絵を指導するとは限らないため、こうしたAIの支援は授業の質を高める手段として期待されています。

応用を支える基礎技術

これらの応用研究を支えているのが、基礎的なAI技術の革新です。胎児の心拍モニタリングでは、ChatGPTのような文章理解に使われる「トランスフォーマー」という技術を、心拍の波形データ解析に応用した独自のモデルが使われています。従来は文字や単語の並びを理解していた技術を、時間の流れとともに変化する波形パターンの理解に活用することで、より精密な診断が可能になりました。この技術は、水泳や野球のフォーム分析など、時間とともに変化するデータ全般に応用できるため、幅広い分野への展開が期待されます。また、少ないデータでも学習できる「自己教師あり学習」という技術も開発されています。社会に役立つAIシステムの開発には、基礎と応用の両輪が必要なのです。

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法政大学 理工学部 創生科学科 准教授 柴田 千尋 先生

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メッセージ

AIは将来性のある分野ですが、仕事を奪われる不安や偽情報の拡散といった側面もあります。高度な思考や数学の問題解決、プログラム作成ができるAIが登場している今、大切なのはAIを正しく理解し、使いこなすことです。ブラックボックスとして受け入れて、出力をすべてむやみに信じるのではなく、AIがどのような仕組みで動いているかを学び、適切に判断できるようになりましょう。AIを怖がる必要も、支配される必要もありません。正しい理解があれば、AIと共に歩む未来を築けます。

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