「遠くの災い」を自分ごとにする、デジタルアーカイブの力

「遠くの災い」を自分ごとにする、デジタルアーカイブの力

災いのデジタルアーカイブ

南太平洋の小国ツバルは、地球温暖化によって海面が上昇し、将来国土の大半を失うとされています。ある研究では、ツバルの国土を立体的に再現し、そこに島民の写真とインタビュー記録を載せて「デジタルアーカイブ」を構築しました。これにより、遠く離れたツバルにどんな人たちが暮らし、何を考えているのかが、身近に感じられます。
同じく、原子爆弾の被害を受けた長崎や広島、そしてウクライナ・ガザ地区の戦災や東日本大震災、能登半島地震を対象にしたデジタルアーカイブもつくられています。遠い過去の、あるいは遠い国の「災い」において、人々がどんな被害を受けたのかが、実感を持って伝わります。

若者がつくる記憶のコミュニティ

これらのアーカイブの特徴は、個別の記録を1つのマップにまとめて俯瞰(ふかん)的に伝えられる点です。その基盤は「オープンソース」のソフトウェアです。誰もが開発に参加して成果を共有できるうえ、いち企業の都合で突然使えなくなるリスクもありません。
また、広島・長崎のアーカイブには、地元の高校生たちが被爆体験の聞き手として関わっています。ウクライナの若者たちも、危険な状況のなかで戦災のデータを集め、世界中の人々に、自分たちの体験を伝えるアーカイブ構築に協力しています。こうした活動を、オープンソースの技術が支えています。

「遠くの災い」を自分ごとに

広島・長崎やウクライナのアーカイブは、戦災の記憶を継承する「記憶のコミュニティ」としての側面も持っています。未来の社会の担い手となる若者たちが参画し、自分ごととしての記録を集め続けることにより、アーカイブは成長し続けます。
私たちは災害や戦災について、どこかで「自分とは関係がない」と思ってしまうことがあります。最新の情報技術を活用して作成したコンテンツと、それらをわかりやすく伝えるデザインの力によって、自分から遠く離れていると思い込んでいたことが、実は自分と地続きであることが実感され、「遠くの災い」が自分ごとになるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京大学 大学院情報学環  教授 渡邉 英徳 先生

東京大学大学院情報学環 教授渡邉 英徳 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

情報デザイン学、デジタルアーカイブ

先生が目指すSDGs

メッセージ

私の研究テーマであるデジタルアーカイブは、誰もが参加できるオープンソースでつくられ、専門知識がなくても使える仕組みが備わっています。実際に、高校の探究の時間でこの技術を使い、その成果が評価されて本学に入学した学生もいます。大切なことは技術そのものよりも、その技術を使って何をするかです。あなたも、大人にはない柔軟な発想力で新しいことを企画し、探究活動などに生かしてほしいです。もし気になることや質問があれば、ぜひ私たち渡邊研を訪ねてください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。