見えない細菌から患者を守る感染予防

医療現場の感染予防の基盤
病院で医療従事者が手袋をして処置をしたり、血液や体液に触れる際に特別な防護具を着用したりする光景は、現在では当たり前になっています。これは「標準予防策」と呼ばれる感染予防の基本原則で、患者由来の血液、尿、痰(たん)、排せつ物などはすべて感染源として扱い、どの患者に対しても同様の予防策を実施するという考え方です。しかし、これが医療現場に定着したのは実はごく最近のことで、平成一桁の頃まで看護師は素手でおむつ交換を行うのが普通でした。当時は「感染症の時代は終わり、これからは慢性疾患の時代」と考えられており、院内感染や医療関連感染への関心も低い状況だったのです。
医療安全の変革
標準予防策の普及に大きな役割を果たしたのが、微生物学の考え方です。重要なきっかけとなったのは、酸素加湿器に入れる水を継ぎ足すだけでは細菌が増える一方、週に一度きちんと交換する病棟では清潔さが保たれていたという調査結果でした。病棟での観察やカンファレンスでは、物の置き方や清潔区域の決め方を少し工夫するだけで、感染の広がりを抑えられることもわかりました。看護師たちの努力によって多剤耐性菌の院内感染が収束した事例も生まれ、日常的なケアを科学的に検証することの重要性が理解されていきました。2000年代には標準予防策が国家試験にも出題されるようになり、常識として全国に浸透していったのです。
行動としての定着を
感染予防策は単なる知識ではなく、行動として定着させることが重要です。そのために、細菌学の実験手法を取り入れた教育が実施されています。例えば、爪を伸ばしたり指輪をつけたりするとそこに細菌が付着しやすくなることを、培養実験で確認する授業があり、細菌の数の違いを目に見える形で理解する機会になります。そのほかにも、忙しい現場においても効率的よく抜け漏れなく実施するための工夫など、感染予防徹底のための取り組みは、今もなお進化を続けているのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
