細胞を覆う糖鎖を人工合成 生命の謎の解明と薬への応用

細胞を覆う糖鎖を人工合成 生命の謎の解明と薬への応用

細胞を覆う「糖の鎖」

私たちの体を構成する約37兆個の細胞の表面は、「糖鎖」という分子で覆われています。糖鎖はさまざまな種類の糖が数珠つなぎになったものです。細胞と外界が触れる位置にあり、細胞同士の接触や外からの刺激を受け取る場として働きます。ウイルスが体の中に侵入する際も最初に触れるのはこの糖鎖であり、インフルエンザの特効薬であるタミフルは糖鎖の研究から生まれました。体内には数万種類以上の糖鎖があると推定されており、まだわからない部分が多く残されています。

化学合成の壁を越える

糖鎖の働きを理解するためには、必要な種類の糖鎖を研究材料として用意しなければなりません。十分な質と量の糖鎖を自然界から得るのは難しいため、人工的につくる(合成する)必要があります。しかし糖鎖の構造は複雑で、思い通りの並び方で合成することは困難です。特にシアル酸と呼ばれる糖鎖の働きに重要な糖を含む糖鎖の合成では、結合の向きが異なる二つの型が混ざってできてしまうことが大きな課題でした。人体内には片方の型しか存在しないため、研究に使うにはその型だけが必要です。この問題に対し、糖の立体構造を巧みに利用して、体内と同じ向きの糖鎖だけができるよう制御する化学反応が開発されました。この手法により、これまで不可能だった構造の糖鎖も合成できるようになり、また合成は可能でも微量しかつくれなかった糖鎖も迅速・大量に合成できるようになりました。

合成技術が広げる理解と応用

糖鎖の合成技術は、生命現象の理解と応用研究の両面で、新しい扉を開きつつあります。例えば蛍光分子を糖鎖に付けることにより、細胞表面でどこに存在しているかを顕微鏡で追えるようになり、これまで見えなかった糖鎖の振る舞いが明らかになりつつあります。さらに、糖鎖が「特定のものに結合する」という性質を持つことから、薬を特定の臓器に届けるドラッグデリバリーへの応用も検討されています。未知のことが多い分野だからこそ、新しい技術とともに研究が大きく進もうとしているのです。

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岐阜大学 応用生物科学部 応用生命化学科(糖鎖生命コア研究所) 教授 安藤 弘宗 先生

岐阜大学 応用生物科学部 応用生命化学科(糖鎖生命コア研究所) 教授 安藤 弘宗 先生

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生物有機化学、生物分子化学

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