動物を犠牲にしない手術模型を用いた獣医学教育

動物を救うために、動物を傷つける?
かつて獣医学教育の手術実習では、健康な動物に麻酔をかけ、実際に切開して縫合する練習が行われていました。動物を救う技術を学ぶために、別の動物を犠牲にしてしまうという矛盾があったのです。やがて動物愛護の観点から生体使用を中止する大学が増え、市販の模型が使われるようになりました。しかし、検査の練習用や、分かりやすく臓器が並んだ単純な模型が多く、実際の外科手術とは大きく異なっていました。そこで、「本物の手術の感覚が身につかない」という課題を解決するため、安価で誰もが平等に学べる手術模型が開発されました。
手術の臨場感の再現
例えば犬や猫でよく行われる避妊手術では、背中側にある卵巣や子宮を丁寧に探し出す必要があります。お腹を開け、膀胱や小腸をよけ、奥にある卵巣までたどり着きます。手術模型では、この一連の流れに沿って臓器を探し、血管を結び、卵巣や子宮を取り出す感覚をそのまま再現できます。実際の手術に近い操作が体験できるため、命を扱う現場の緊張感も感じ取れます。また、こうした経験は学生の自信にもつながり、将来の診療の質を高めることにも役立ちます。さらにこの模型は、使用した臓器模型だけを交換できる構造で、高額で切開できない解剖学用の生体模型とは異なり、切開や縫合を繰り返す“壊して学ぶ”学習が可能です。安価で繰り返し使えることで、学生一人ひとりが実際に手を動かす実習ができます。
獣医療の未来を支える教育のかたち
医学部には卒業後に研修医として経験を積む制度がありますが、獣医学にはその仕組みがありません。多くの学生は卒業後すぐに町の動物病院で働き、いきなり手術に向き合うことも少なくありません。そのため、大学でどれだけ実践的な実習ができたかが技術力を大きく左右します。この手術模型は、多くの学生が繰り返し実践できる教育ツールとして欠かせない存在です。手術模型の開発は、動物医療の倫理と技術を支える未来への大きな一歩となります。
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先生情報 / 大学情報

岐阜大学 応用生物科学部 共同獣医学科 教授 渡邊 一弘 先生
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