「生活を助ける制度」はなぜ届かない? 社会保障の現実

制度と現実の間にある大きな溝
日本には、助けを必要とする人のために生活保護などの社会保障制度があります。憲法25条も「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しています。しかし、生活保護が必要な人のうち、実際に受給できているのは推計で2〜3割にすぎません。制度はあるのに必要な人に届いていないというこのギャップこそが、研究の中心的な課題です。さらに、「健康で文化的な最低限度の生活」にはお金がいくら必要なのか、金額の具体的な根拠は法律にも憲法にも明示されていません。その根拠を明らかにしようとするのが、社会保障法研究の出発点です。
削れない家賃が生む矛盾
生活保護の給付は、食費や光熱費にあたる「生活扶助」と、家賃を支える「住宅扶助」に分かれています。食費は節約できますが、家賃は毎月必ず決まった額を払わなければなりません。ところが住宅扶助には地域ごとの上限があり、家賃が上限を超えると、受給者は生活費から自分で穴埋めするしかないのです。行政から「家賃が高いなら引っ越しなさい」と求められることもありますが、そのための引っ越し費用は支給されません。一度ホームレス状態になると再入居にはさらに大きなコストがかかります。最初から家賃を継続して支給する方が合理的なのに、制度の矛盾がそれを妨げています。
法律が「助けやすさ」を支える
住宅以外にも問題が起きています。日本では、生活保護を受けると原則として自動車を所持できません。しかしこれには法律に明確な根拠がなく、実際は自治体の裁量で決められており、地域によって対応が異なります。一方、ドイツでは一定条件のもと自動車の所持が法律で認められています。基準が明確なので、受給者も行政も迷いません。
制度の内容が法律にきちんと書かれていれば、誰もが安心して助けを求められます。逆に、その土台が曖昧であれば、必要な支援が届かない社会になりかねません。制度の細部を丁寧に問い直すことが、社会全体を支える土台を守ることになるのです。
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龍谷大学 法学部 法律学科 教授 嶋田 佳広 先生
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