ダムやため池を災害から守る! 「逆解析」で挙動を予測

ダムやため池を災害から守る! 「逆解析」で挙動を予測

挙動の予測が難しい、土でできた構造物

農業用水を供給・管理する、フィルダムやため池などの農業水利施設は、主に土を材料として造られています。こうした土質材料は、コンクリートのような人工材料とは異なり、土・水・空気などが混ざり合った複雑な自然材料です。それらの比率や土を採取する場所によって性質が異なるため、外部からの影響に対する挙動の予測は容易ではありません。しかし、こうした土の構造物の高精度な挙動予測は、豪雨や地震による被害を抑制するために重要な研究課題です。

ダムやため池の決壊と地震応答

農業水利施設は常に水にさらされているため、土の構造物への水による侵食は避けられません。侵食は表面だけでなく構造物内部にも起こり、水の通り道「水みち」ができるため、構造物の力学的な性質は時間の経過とともに変化していきます。現状ではこの内部侵食がどのくらいの時間で進行するのかわからず、大雨が降ったときにため池など構造物がどのくらいで決壊するのか予測ができません。
また、ダムやため池の地震応答の予測も重要な課題です。構造物の揺れだけでなく水の揺れも考慮する必要があることや、特に大きな地震では構造物が変形したことでさらに変形が生じるなど複雑な要素が多く、既存の予測方法では限界があります。

挙動予測のカギは「逆解析」

豪雨や地震による構造物の挙動を正確に予測するには、経年の変化で構造物の内部がどうなっているのかを知ることが必要です。そこで、結果から原因を推測する「逆解析」という方法で構造物の内部の様子を推測します。具体的には、構造物の表面を軽くたたき、それで生じた振動という「結果」を観測・解析することで、その振動が示す特徴の「原因」である構造物の固さの分布がわかるのです。さらに振動の観測・解析の仕方を工夫して、構造物の中にある侵食でできた空洞の形状を可視化する方法も開発されています。これにより、従来はわからなかった構造物内部での侵食の進行が予測できると期待され、実用化に向けて研究が進められています。

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京都大学 農学部 地域環境工学科 施設機能工学分野 教授 藤澤 和謙 先生

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大学の「○○学」と聞くと、高校までの教科・科目と違うので、実態をイメージしにくいという人も多いでしょう。ただ、学問というのはどの分野に行ってもつながっているものです。自分の得意を生かせる研究はどの学部でもできますし、特に農学部や工学部はそれを社会に生かせる魅力があります。また大学の学問は難しいというイメージがあるかもしれませんが、アカデミズムが目指すものは「そうだったのか」と当たり前に思えることだと考えています。難しく考えず、「当たり前」を探しに来てください。

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