世界の終わりが国を動かす! 終末論と政治の不思議な関係

終末論が歴史をつくった
仏教にも「末法思想」という終末論があります。仏の教えが次第に衰えて失われ、仏教的世界観が終わるという考えです。
明治時代、中国を訪れた日本の僧侶たちは、寺院の荒廃や僧侶の堕落を目の当たりにします。当時、日本の「近代仏教教育制度」の輸入による中国仏教の改革を主張した一部の中国仏教者たちは、日本人仏教者との交流の中で、末法言論を使用した「仏学院」という教育機関の設立を進めていきました。
かつて中国から伝わった仏教が、日本から「逆輸入」されるという意外な展開が、終末論をきっかけに生まれました。
戦争が「理想の未来」へのステップに?
多くの終末論には、「この世が滅んだ後に理想の世界が来る」という考え方があります。それゆえ、破壊や戦争さえも「未来のために必要な過程」として正当化される危うさがあるのです。
戦前の日本軍人・石原莞爾(かんじ)は、日蓮宗の終末論に影響されて「最終戦争」の構想を抱いていました。日本とアメリカが最後の戦いをおこない、その後に平和で理想的な社会が訪れる未来を信じていたのです。また現代の中東でも、ユダヤ教とキリスト教の一部では、エルサレム神殿の再建が終末到来に不可欠とされます。宗教は異なっても「終末を早めたい」という共通目的で手を結び、政治や国際情勢に影響を及ぼすこともあります。
支配の「正当化」にも
終末論は、政治を正当化する力としても使われてきました。日中戦争時の中国では、道教の終末論が政治指導者に影響を与えました。「観音菩薩(ぼさつ)のお告げ」に従い、「社会の道徳を正せば終末を回避できる」と主張して、自らの政治行動を「天の意思」と重ねて正当性を訴えました。
終末論は、宗教思想にとどまらず、政治や支配の根拠としても用いられ、人々の感情や行動、そして歴史そのものに大きな影響を与えてきたのです。
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