講義No.14985 数学

点と線から生まれる新しい幾何学の世界

点と線から生まれる新しい幾何学の世界

差分幾何学とは?

微分・積分を使って曲線や曲面を研究する学問が「微分幾何学」です。これに対して「差分幾何学」は、差分(引き算)や和分(足し算)を使って、離散的な曲線や曲面を研究する分野です。滑らかな曲線や曲面の場合、図形の形は「曲率」という関数によって決まり、微分積分学がこの関係を支えています。しかし離散的な図形は微分積分と相性が悪く、従来の理論では扱いにくいものでした。差分幾何学は最初から「離散的図形」を研究対象として、曲率に相当する概念を見つけることで、これらの図形をうまく扱えるようにします。

連続的な図形の近似にあらず

離散的図形を扱うと言っても、連続な対象物を近似するのではなく、はじめから離散的図形を主役にして、連続的な図形は離散的図形の一つの極限の姿に過ぎないと考えます。離散化の観点からみた差分幾何学の特徴は、見た目の近似だけでなく、「曲率」のような数学的性質を離散の世界でも正確に保存することにあります。
差分幾何を考える動機は大きく二つあります。一つは離散モデルで考えると曲率などの概念が理解しやすいこと、もう一つは、欲しい図形を構成するためのツールとして有用なことです。パラパラ漫画のように、いくつかの点さえあれば、私たちの脳は自動的に連続した形を想像できます。同様に、離散的な情報があれば図形を構成できるのです。ただし、わずかな式の違いで結果が大きく変わることがあり、きれいな理論を作るのは容易ではありません。

コンピュータと相性が良い

差分幾何学は1970年頃に生まれ、現在はドイツのグループを中心に発展しています。離散的な表現はコンピュータとの相性が良く、複雑な計算も効率的に行えるため、さまざま分野で応用されています。例えば、建築分野では従来にない斬新な設計ソフトウェア環境の開発に生かされ、屋根の形状設計などに応用されています。また最近では「弾性棒」と呼ばれる、力を加えると曲がるけれど手を離すと元に戻る物体の差分幾何学的研究が進められ、CG分野との関係も模索されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

福岡大学 理学部 社会数理・情報インスティテュート 教授 松浦 望 先生

福岡大学理学部 社会数理・情報インスティテュート 教授松浦 望 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

数学、幾何学

メッセージ

差分幾何学は、高校の数学Bで学ぶ数列を利用して、良い性質をもつ図形を探そうとする研究分野です。微分や積分の技術を用いて曲線や曲面を構成する学問は古くから微分幾何と呼ばれていますが、これとは対照的に、差分幾何では引き算や足し算の技術を用いて離散曲線や離散曲面を作ります。離散的な世界はコンピュータと相性が良いため、差分幾何は数学とプログラミングの両方が楽しめる学問分野です。あなたも大学で専門的な数学を学び、自分がどのような数学に興味があるか、探してみませんか。

福岡大学に関心を持ったあなたは

福岡大学は、9学部31学科、在学生2万人を有する総合大学です。多くの学生や教職員が行き交う広大なキャンパスは福岡市の南西部に位置し、都心部との交通の便もよく、活気に満ちあふれています。「ワンキャンパス」に全学部が集結しており、総合大学の魅力を生かし、学問・研究および課外活動などにおいて学部間の交流が盛んに行われ、文系・理系だけにとどまらない幅広く多様な視野と知識を得ることが可能な大学です。また、創立から90周年で輩出した卒業生総数は28万人を超え、あらゆる分野で力を発揮しています。