講義No.14987 医学 生物学

紫外線から皮膚を守れ! 遺伝子研究が開く難病治療の可能性

紫外線から皮膚を守れ! 遺伝子研究が開く難病治療の可能性

DNAの修復機能

皮膚は、紫外線の影響をじかに受ける臓器です。紫外線は細胞のDNAに化学反応によって直接的に、あるいは活性酸素を介して間接的にDNAを傷つけます。
しかし人間の体には、傷ついたDNAを修復する機能が備わっています。研究の結果、約20種類のタンパク質(酵素)が関わるDNA修復プロセスがあることがわかりました。この中の3種類のタンパク質の機能が加齢で徐々に下がり、高齢者では半減することも判明しました。加齢で皮膚老化が進行し、がんになりやすくなる原因の一つが、修復しきれなかったDNAがたまっていくことだと考えられます。
この研究を基に、現在美容医療で行われているLED光照射の皮膚への影響を皮膚の細胞を材料に検証したところ、赤や青のLED光には修復機能の回復効果があることが、科学的に実証されました。

色素性乾皮症

こうした研究により、難病指定である遺伝性皮膚疾患、「色素性乾皮症」の解明も進みました。この病気は潜性遺伝で、日本人に多いのが「A群」と呼ばれるタイプです。紫外線に当たるとやけどのようになったり、神経障害を起こしたり、子どものうちからがんになりやすい特徴があります。研究の結果、その原因が、DNA修復に関わる遺伝子のうち「XPA」と呼ばれる因子の欠損であり、日本人の100人に一人が欠損XPAをヘテロで持つことがわかりました。

難病治療に希望が

長年にわたるさまざまな医学研究を基に、色素性乾皮症の治療法の研究が始まっています。その一つが遺伝子治療です。欠損している遺伝子をウイルスに組み込み、人に感染させて細胞内に侵入させることで、その遺伝子を補う治療です。また、遺伝子に異常があっても、強制的にDNA修復に関わるタンパク質を合成させる「リードスルー薬」の研究開発も始まりました。DNAを傷つける活性酸素を除去する薬の開発も進んでいます。
こうしたさまざまなアプローチによる、難病治療の可能性に期待が集まっています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪医科薬科大学 医学部  教授 森脇 真一 先生

大阪医科薬科大学医学部 教授森脇 真一 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

光皮膚科学、遺伝性皮膚疾患

先生が目指すSDGs

メッセージ

私が研究を始めた当時、希少疾患である「色素性乾皮症」は全く原因が解明されておらず、研究する人も少数でした。しかし、患者さんの苦しみをなんとかしてあげたいという強い思いで今まで研究を続けてきました。医学の進歩により病気の原因となる遺伝子が次々と同定され一気に病態解明が進みました。私は武者小路実篤の「この道より我を生かす道なし、この道を行く」という言葉が大好きです。流行でないテーマや結果が出ないことを続けるのは勇気がいるかもしれませんが、自分で決めた道を信じて続けることも、大切にしてほしいです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

大阪医科薬科大学に関心を持ったあなたは

2021年4月、大阪医科大学と大阪薬科大学は大学統合を行い、医学部・薬学部・看護学部を有する本邦有数の医療系総合大学「大阪医科薬科大学」としてスタートしました。
今後、医学部生、薬学部生、看護学部生がともに学べる学習環境を確立し、「医薬看融合教育」を更に発展。現代のチーム医療における医師、薬剤師そして看護職者としての役割を学生時代から強く意識できる恵まれた医療教育の環境の中、社会に貢献できる高度医療人を育成します。