世界遺産:考古学、観光学、哲学、人類学など深い探究への入り口

考古学で新たな発見を見いだす
「世界遺産は、観光資源か否か」という議論があります。実際に多くの観光客が訪れるため、世界遺産は考古学で価値を考えて、観光学で遺産のあり方や観光を考えるというように、双方での考察が不可欠です。
考古学で価値を考える好例として、メキシコのテオティワカンという世界遺産があります。テオティワカンは、巨大ピラミッドを有する古代都市遺跡です。ピラミッドの多くは政治的支配者である王の権威を示すもので、テオティワカンのピラミッドは、雨季や乾季など自然の摂理を知る「公共の装置」として機能していました。そして今、考古学によって新しい解釈が認められようとしています。王は知識を支配し、そこに人々が集まって巨大都市となったという新しい説です。ここに限らず、遺跡は発掘して検証する中で、新たな発見が生まれる可能性が大いにあるのです。
観光資源として考え続ける
観光学では、観光資源としての価値や課題、住民への影響などを検証し、保存や活用を考えます。遺跡に限らず、住民の生活空間が世界遺産となるケースがあります。富山県にある、五箇山合掌造り集落がその一つです。生活空間だからこそ、住民の思いや意見を大切にしながら、観光客の行動パターンや住民調査などを検証して、観光のあり方を考えます。正解はありません。どのような観光客層をターゲットとするか、いろりは煙を出して本来の姿を見せるか、フォトスポットとするかなどでも意見は分かれます。議論を深め、多様な意見を出して、その地域にあった方法を考え続けることが大切です。
学際的な興味深い学びへ
考古学と観光学の双方から世界遺産を見ると、新しい疑問や考えるべき課題が次々と浮かびます。例えば、なぜ日本人は世界遺産登録に一喜一憂するのか、諸外国はどうか、世界遺産は毎年増やす必要はあるのか、そもそも世界遺産とは何かといった具合です。世界遺産というテーマは、遺跡としての歴史学のほか、哲学、人類学などの幅広い学問にも広がっているのです。
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