材料開発も加速! 計算物質科学で原子層物質を予測する

材料開発も加速! 計算物質科学で原子層物質を予測する

計算で未知の物質を予測

物質の主な性質は、物質の中の電子の運動によって決まります。電子の運動は量子力学の法則に従っていて、その基本的な原理は方程式で表すことができます。その方程式で電子の運動を計算することを「第一原理計算」と言います。
「計算物質科学」では、コンピュータで第一原理計算を行い、物質の性質を解明します。計算によって、未知の化合物の可能性やその性質を予測できるのです。現在、計算で予測した物質とその特性を掲載した膨大なデータベースをもとに、新たな化合物の実験合成がたくさん行われています。

原子1個の厚みで剥がれる「原子層物質」

中でも注目されているのが、「原子層物質」の予測です。原子層物質とは、厚みが原子1個~数個分の究極的に薄い物質です。代表的なものが、鉛筆の芯に使われる「グラファイト」から剥がれた「グラフェン」です。
グラファイト、グラフェンはダイヤモンドと同じ炭素でできていますが、結晶構造が違うため、それぞれ電気や熱伝導などの性質が異なります。もし、膨大に存在する金属や半導体などの化合物を、原子層物質に「変える」ことができれば、新たな特性を持った材料として使えるのです。原子層を剥がすことができるかどうかについて、計算物質科学の手法を使った予測は、材料開発にとっても重要な研究です。

新たな原子層物質が次々に発見される

これまでの計算方法による原子層物質の予測では、「グラファイトに似た層状物質を探すこと」に限定されていました。しかし最近、(グラファイトとは異なる)立体構造の結晶から原子層を剥がせるかどうかを調べるための、新たなエネルギー計算方法が考案されました。それによると、電子の動きが面内に収まる(上下に動かない)性質を持つ物質は、不安定になりにくく、原子層物質になり得ることがわかりました。その結果、シリコンや金からなる、新たな原子層物質が次々に見つかっています。

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先生情報 / 大学情報

室蘭工業大学 理工学部 システム理化学科 教授 小野 頌太 先生

室蘭工業大学理工学部 システム理化学科 教授小野 頌太 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

計算物質科学、ナノテク・材料工学

メッセージ

進路に悩んでいるなら、「とりあえず何か始める」ことをお勧めします。私も大いに悩み、それでも解決しないので、たくさん本を読んで、たくさん勉強し、先生と語り合いました。数学や物理の本だけでなく、夏目漱石を何冊も読み、「自己本位」という言葉に出会いました。「他人に従うのではなく、自分でつくり出す」という考え方が自分に合い、指針となっています。そんな中で良き指導者に恵まれ、「計算物質科学」に出会いました。世界に先駆けて新たな物質の性質を解明しようと、一生懸命に進んでいます。

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北海道の工業都市で「ものづくりのマチ」である室蘭市に所在する室蘭工業大学は「地域貢献」を大きなキーワードとして掲げ、産業界で活躍しつづける幅広い理工系人材を育てるべく教育改革を行い、工学部から理工学部へと大きく進化しました。ものごとの本質をつかみ、探究心を養うべく理工学教育を全学的に充実させ、更にICTやAIの本質を理解して使いこなし、もの・価値づくりに貢献できる学生を育てる工業大学ならではの情報教育を推進しています。確かな研究力をベースとした教育力をキーワードとしている本学講義を体感ください!