なぜ「3猫」はダメ? 脳が決める言葉のルール

英語と日本語の「数え方」の不思議
英語では「three cats」と言えますが、日本語で「3猫」とは言いません。「3匹の猫」のように、必ず「匹」を入れます。これは言語のルールの違いによるもので、世界の言語は、数字と名詞をそのままつなげるタイプと、間に「匹」などを挟むタイプに分かれることがわかっています。
数を数えること自体は世界中の人ができるはずなのに、その表現が異なるのは、日本語の「猫」と英語の「cat」が文法的に異なる性質を持っているからでしょう。「cat」は単体では使えず「a cat」「the cat」「cats」のように形が変わりますが、「猫」は「猫が好き」のように単体で文にできます。この違いが、数の表し方にも影響していると考えられるのです。
「百」や「千」も助数詞だった?
「3百人の学生」という表現で、「何百人?」と尋ねることは自然ですが、「3何人?」とは言えません。この「言えなさ」は、「3匹の猫」の「匹」だけを尋ねられないのと似ています。つまり「百」や「千」は、実は「匹」と同じように助数詞的な働きをしているのかもしれません。
こうした仮説を、さまざまな言語と比較しながら証明していくのが理論言語学です。私たちは無意識に「3」と「百」を区別して使っていますが、その直感の背景には、脳が持つ言語のシステムがしっかり働いているのです。
言葉から世界の見方を探る旅
「時間の表現」にも研究のタネがあります。例えば、「今」「過去」「未来」といった時間のとらえ方は人間に共通していても、それをどう言葉にするかは言語ごとに大きく異なります。この違いを探ることで、時間の認識と表現の関係にも新たな発見があるかもしれません。
理論言語学はまだ若い学問ですが、だからこそ新しい発見をするチャンスが豊富にあります。将来は言語教育、AI、脳科学ともつながる可能性があります。言葉を通して「ヒトが世界をどう見ているのか」を探る旅は、今まさに始まったばかりなのです。
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明海大学 外国語学部 英米語学科 講師 辰己 雄太 先生
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