新ワクチンの開発で養殖漁業のピンチを救え!

養殖ブリの病気被害
養殖漁業が直面している大きな問題の一つが病気による被害です。ブリ類は、養殖漁業の生産量の4割近くを占める主要な魚ですが、成長の途中で全体の3割程度が病気で死んでしまいます。特に深刻なのがノカルジア症と呼ばれる感染症で、既存のワクチンはほとんど効果がありません。そこで、ノカルジア症を予防するための新しいワクチンが研究されています。
ワクチンの効果を高める物質を探索
ワクチンにはいろいろな種類がありますが、養殖魚に使用できるのは、安全性の面などから病原菌を殺して不活化させたものを原料とする「不活化ワクチン」のみです。ただし、不活化ワクチンは、二つある免疫応答のうち、抗体を主体とする液性免疫だけを強く誘導します。病原菌に感染した細胞を破壊する細胞性免疫は誘導できないため、効果が低いのです。そこで、不活化ワクチンに加えることで、細胞性免疫を誘導できるような「アジュバント(ワクチンの効果を高める物質)」が探索されています。
アジュバントの候補としてまず見つかったのが、免疫細胞間の情報伝達物質の一つである「IL12」です。IL12をアジュバントとして加えた試作のワクチンはブリの生存率を88%まで上げることに成功しました。しかし製作コストが高すぎるため、実用化の面で課題があります。
細菌由来の脂質がカギ
そこで今度は、魚の体内でIL12をたくさん作らせるような物質を探したところ、ノカルジア症を引き起こす細菌由来の脂質にその作用があることがわかりました。細菌から脂質を抽出するのは簡単で、コスト面は問題ありませんが、ワクチンの効果としては50%にとどまっています。効果をさらに高めるために、その脂質に対する魚類の免疫応答のメカニズム解明が進められています。
通常、ワクチンの接種は一匹ずつ人の手で注射するため手間がかかります。しかし脂質を成分としたワクチンは胃酸で壊れる心配がないため、えさに混ぜるだけで済む可能性もあり、期待されています。
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