患者が抱える困難を、「当たり前」にしないで問い直す

症状以外の苦しさもある
医療は、体のどこが悪いのか検査結果や数値を重視して、基本的には「治療すること」を目的にしています。しかし精神疾患など、症状を抑えたり軽減したりすることはできても根治が難しい慢性疾患もあります。長く病気を抱えながら生活する中で、症状の影響で社会関係が破壊されたり、自己実現が閉ざされたりすることに苦しさを感じている人もいます。このように医療とは違う見方で、本人や周囲の人たちがどのような苦しみを抱えているのかなど、問題を拾い上げて提示するのが「医療社会学」です。
家族の中でも違う困りごと
精神疾患の一つである「双極症」は気分障害とも言われ、激しい気分の上がり(そう状態)や、落ち込み(うつ状態)を繰り返します。日常的な気分の浮き沈みは誰にでもあるため、症状のつらさが理解されにくい面もあります。双極症の当事者や家族などに困りごとを聞き取ると、症状の見方や考え方にそれぞれ違いがあり、そこから衝突が起こることなどもわかってきました。例えば、気分が上がったときに本人は「元気になったから社会に戻ろう」と考え、一方家族は「波がある病気なので安静にしてほしい」と思っている、といったことです。また、生育環境や記憶に残る子ども時代のエピソードなどを聞き取る中では、「家族のあり方」と双極症との関連性についても分析されています。
問題が即解決するわけではないけれど
医療社会学の調査で、例えば本人と家族それぞれの困りごとを明らかにしても、問題が解決するわけではありません。しかしこれまで認識されていなかった状況を提示することは、家族の相互理解や、社会が緩やかに変わっていくためのきっかけになる可能性はあります。例えば、精神疾患を抱えていると、本人も周囲も働けないと考えがちでしょう。医療社会学では、「本当にそうなの?」と一から問い直し、社会の制度や仕組みなど問題点を明らかにすることで、福祉など他分野の取り組みへとつなぐこともできるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
