講義No.15496 社会学

患者が抱える困難を、「当たり前」にしないで問い直す

患者が抱える困難を、「当たり前」にしないで問い直す

症状以外の苦しさもある

医療は、体のどこが悪いのか検査結果や数値を重視して、基本的には「治療すること」を目的にしています。しかし精神疾患など、症状を抑えたり軽減したりすることはできても根治が難しい慢性疾患もあります。長く病気を抱えながら生活する中で、症状の影響で社会関係が破壊されたり、自己実現が閉ざされたりすることに苦しさを感じている人もいます。このように医療とは違う見方で、本人や周囲の人たちがどのような苦しみを抱えているのかなど、問題を拾い上げて提示するのが「医療社会学」です。

家族の中でも違う困りごと

精神疾患の一つである「双極症」は気分障害とも言われ、激しい気分の上がり(そう状態)や、落ち込み(うつ状態)を繰り返します。日常的な気分の浮き沈みは誰にでもあるため、症状のつらさが理解されにくい面もあります。双極症の当事者や家族などに困りごとを聞き取ると、症状の見方や考え方にそれぞれ違いがあり、そこから衝突が起こることなどもわかってきました。例えば、気分が上がったときに本人は「元気になったから社会に戻ろう」と考え、一方家族は「波がある病気なので安静にしてほしい」と思っている、といったことです。また、生育環境や記憶に残る子ども時代のエピソードなどを聞き取る中では、「家族のあり方」と双極症との関連性についても分析されています。

問題が即解決するわけではないけれど

医療社会学の調査で、例えば本人と家族それぞれの困りごとを明らかにしても、問題が解決するわけではありません。しかしこれまで認識されていなかった状況を提示することは、家族の相互理解や、社会が緩やかに変わっていくためのきっかけになる可能性はあります。例えば、精神疾患を抱えていると、本人も周囲も働けないと考えがちでしょう。医療社会学では、「本当にそうなの?」と一から問い直し、社会の制度や仕組みなど問題点を明らかにすることで、福祉など他分野の取り組みへとつなぐこともできるのです。

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新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 社会福祉学科 講師 松元 圭 先生

新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 社会福祉学科 講師 松元 圭 先生

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社会学、医療社会学

メッセージ

私は、大学に入って師匠と仰ぐ先生に「社会学は役に立つことをめざしてする学問ではないけれど、やっていれば誰かの役に立つこともある」と言われたことが印象的でした。学問や研究は、社会に貢献できるとか、就職につながると考えている人が多いかもしれません。もちろんそれは立派なことですが、少しくらいは社会への貢献を意識せずに、自分が面白いと思うことを学問で追求する人がいてもいいと思っています。そういうことがしたいのであれば、社会学はおすすめです。

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6学部15学科すべての学科で国家資格をはじめとした専門資格の取得に対応したカリキュラムを配置しています。また、看護・医療・リハビリ・栄養・スポーツ・福祉の総合大学である利点を生かし、他学科の学生がチームを形成して学ぶ「連携教育」を導入し、関連職種への理解やコミュニケーション技法を身につけることで実践的な「チーム医療」を学びます。さらに、【スポーツ×リハビリ】【看護×福祉】など、学科コラボによる学びで、幅広い知識を修得します。