講義No.15506 史学・地理学

「男らしさ」って何? 歴史を知れば「当たり前」が変わる

「男らしさ」って何? 歴史を知れば「当たり前」が変わる

アメリカにおける「男らしさ」と戦争

20世紀初頭のアメリカでは、「健康で強い肉体」と「一家をなす経済的自立」が男らしさの要素として重視されていました。他方で、1914年に第一次世界大戦が始まると、こうした価値観とは、また別の「男らしさ」も重視されます。開戦当初は、市民の義務を果たすために戦場に向かうことが「理想の男性像」として描かれました。しかし次第に、戦場でケガや病気になり、帰国後は障害を抱えて日常生活や労働が困難になる男性が増えていきました。彼らは戦争によって、皮肉にも「健康で強い肉体」と「経済的自立」の両方を脅かされたのです。

「男らしさ」を支える政策

戦争で負傷することで「男らしさ」を失うリスクがあるとすれば、戦争に行かないことが「男らしさ」を守る手段になってしまいます。アメリカ国家は国民の戦意を維持するために、リハビリテーションを通じた社会復帰支援政策を開始しました。障害を克服して仕事を得ることで、「男らしさ」を取り戻すことができるという新たな価値観が生み出されたのです。こうした政策の下では、同時に、傷ついた兵士を抱きしめて癒やし、彼らの「自立」を助けるような、「理想の女性像」が描かれました。

自立という価値観の変遷

やがて「経済的自立」は、「男らしさ」だけでなく、「市民としての資格」としても位置づけられるようになります。1970年代以降、アメリカでは移民や女性にも「経済的自立」が求められるようになりました。1990年代には、「就労による自立」が公的扶助の前提条件として制度化されました。
このように、私たちが「当たり前」として受け入れている価値観の多くは、国家による過去の政策や戦争など、変化する歴史的背景の中で形成されてきたものです。今「当たり前」と思い込んでいる価値観が、いつまでも続くとは限りません。また、そもそも「当たり前」ではないのかもしれません。歴史を知り、なぜその価値観が生まれたのかを知ることが、「当たり前」に対する新たな視点をもたらしてくれるでしょう。

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先生情報 / 大学情報

関東学院大学 国際文化学部 国際文化学科 グローバル歴史文化コース ※2026年4月開設予定(設置届出中) 准教授 小滝 陽 先生

関東学院大学 国際文化学部 国際文化学科 グローバル歴史文化コース ※2026年4月開設予定(設置届出中) 准教授 小滝 陽 先生

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メッセージ

何をやりたいのかわからないときは、「違和感」や「納得できないこと」に目を向けてみましょう。私は、「自立」や「男らしさ」といった、いつの間にか当たり前とされている価値観に違和感を持ち、なぜそれが当たり前になったのかを知るために、歴史をたどっています。「好き」というポジティブな感情だけでなく、「違和感」といったネガティブな感覚も、客観的に見つめ直すことで学部選びや職業選択のヒントになり得ます。ぜひ、さまざまな角度から物事をとらえ、自分自身のテーマを探してみてください。

関東学院大学に関心を持ったあなたは

1884年(明治17年)、関東学院は横浜山手に神学校として創立されました。長い歴史と伝統をもつ関東学院はキリスト教の優れた思想、芸術、奉仕の精神を礎に、校訓「人になれ 奉仕せよ」のもと広く世の中に貢献できる学問・知識を身につけた有能な人材の育成を目指してきました。現在では、文理にわたる学部を擁する総合大学へと発展。伝統に裏打ちされたキャンパスライフサポート、学修サポート、キャリアサポートの3つのサポート体制で学生一人一人に合わせた支援をこれからも行っていきます。