「男らしさ」って何? 歴史を知れば「当たり前」が変わる

アメリカにおける「男らしさ」と戦争
20世紀初頭のアメリカでは、「健康で強い肉体」と「一家をなす経済的自立」が男らしさの要素として重視されていました。他方で、1914年に第一次世界大戦が始まると、こうした価値観とは、また別の「男らしさ」も重視されます。開戦当初は、市民の義務を果たすために戦場に向かうことが「理想の男性像」として描かれました。しかし次第に、戦場でケガや病気になり、帰国後は障害を抱えて日常生活や労働が困難になる男性が増えていきました。彼らは戦争によって、皮肉にも「健康で強い肉体」と「経済的自立」の両方を脅かされたのです。
「男らしさ」を支える政策
戦争で負傷することで「男らしさ」を失うリスクがあるとすれば、戦争に行かないことが「男らしさ」を守る手段になってしまいます。アメリカ国家は国民の戦意を維持するために、リハビリテーションを通じた社会復帰支援政策を開始しました。障害を克服して仕事を得ることで、「男らしさ」を取り戻すことができるという新たな価値観が生み出されたのです。こうした政策の下では、同時に、傷ついた兵士を抱きしめて癒やし、彼らの「自立」を助けるような、「理想の女性像」が描かれました。
自立という価値観の変遷
やがて「経済的自立」は、「男らしさ」だけでなく、「市民としての資格」としても位置づけられるようになります。1970年代以降、アメリカでは移民や女性にも「経済的自立」が求められるようになりました。1990年代には、「就労による自立」が公的扶助の前提条件として制度化されました。
このように、私たちが「当たり前」として受け入れている価値観の多くは、国家による過去の政策や戦争など、変化する歴史的背景の中で形成されてきたものです。今「当たり前」と思い込んでいる価値観が、いつまでも続くとは限りません。また、そもそも「当たり前」ではないのかもしれません。歴史を知り、なぜその価値観が生まれたのかを知ることが、「当たり前」に対する新たな視点をもたらしてくれるでしょう。
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