「味を“見る”」って変じゃない? 言葉の不思議を探る言語学

言葉に潜む不思議
「味を見る」という表現があります。味は本来舌で感じるものなのに、なぜ「見る」という動詞を使うのでしょうか。実は「見る」には、視覚情報を取り入れて判断し、次の行動を決めるという意味が含まれています。味見の場合、取り入れるのが視覚的な情報ではないだけで、基本的な構造は同じなのです。また「成績が上がる」「評価が下がる」といった表現があります。成績自体に上下があるわけではないのに、このような表現をするのには「良いものは上、悪いものは下」というイメージが関係しています。
日本語以外にも同様な表現があることから、このイメージは文化圏にかかわらず、人間が共通に持っているものと推測されます。こうした身近な言葉に潜む意味や背景を解き明かすのが、言語学の役割の一つです。
文化が生み出す豊かな語彙
日本語には雨に関する単語が1000以上もあります。「にわか雨、天気雨、霧雨、通り雨、夕立」など、同じ雨でも時期や量、降り方によって細かく分類されているのです。これは日本の風土や生活様式の中で、雨への関心が高いことを示しています。人間は、関心のあるものほどたくさんの言葉で表現する傾向があります。雪の多い地域では雪の表現が豊富になるように、言葉と文化には深いつながりがあるのです。
実社会に生かされる言語研究
こうした言語学の知見は、日本語教育の現場でも活用されています。例えば、「味見」のような意味の広がりや、風土や文化と言葉の関係を知ることが、日本語学習の助けとなるのです。
また、日本で暮らす外国人には、文法や語彙(ごい)を教えるだけでは不十分で、日常生活に必要な会話力や雑談のスキルを育てることが求められています。例えば、近所の人に「こんにちは、今日も雨ですね」とあいさつされて、返答に戸惑う学習者もいます。このような実践的なコミュニケーション技術の背景にも、文化と言語の関係が横たわっています。日本語教育を通じて、言語学の研究は社会に密着し、広がりを見せているのです。
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関東学院大学 国際文化学部 国際文化学科 多文化協働コース ※2026年4月開設予定(設置届出中) 教授 伊藤 健人 先生
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