年輪は、遠い宇宙の出来事を伝える「記録装置」

年輪に残る宇宙の痕跡
地球に降り注ぐ宇宙線は、大気中で「炭素14」という物質を作り出します。樹木が成長する過程で、この炭素14が年輪の中に閉じ込められます。その炭素14の量を調べることで、過去の宇宙線の量を読み解くことができ、当時の太陽の活動がわかるのです。
屋久杉の年輪を調べたところ、西暦774~775年に異常な炭素14量の増加(=炭素14スパイク)が検出されました。これは過去に起こった巨大な「太陽フレア」の痕跡と考えられています。
太陽はおとなしくない
今までに観測されている最大の太陽フレアでも炭素14の増加は検出できません。774年のイベントは現代で観測される太陽フレアの数十倍から百倍の規模だったと考えられ、従来「おとなしい星」とされていた太陽の常識が覆されました。
この規模の巨大フレアが現代に起きれば、GPS障害や大規模停電、人工衛星の故障など、私たちの生活に多大な影響を与え、その経済損失は莫大と予想されます。そこで、このような巨大フレアの痕跡を探し出し、過去のイベントの頻度を調べることで、将来のリスクを評価しようとしています。
歴史解明にも貢献
この研究は宇宙物理学だけでなく、歴史学や考古学にも影響を与えています。年輪中の炭素14の変化を調べることで、古代の遺跡から出土した木材の伐採年を1年単位で特定できます。この年代測定法は「スパイクマッチング」と呼ばれ、バイキングがアメリカ大陸に到達した正確な年代が特定されるなど、応用が進んでいます。
現在、炭素14スパイクの探索が過去数千年にわたって進められており、将来的には、炭素14で調査可能な約5万年前までの記録を対象とすることが目指されています。樹木年輪に加えて南極の氷床コアや湖の堆積物など、さまざまな試料を組み合わせて分析することで、さらに長期的な太陽活動の歴史が明らかになるでしょう。この学際的研究は、宇宙から地球、そして人類の歴史まで幅広い分野に新たな知見をもたらし続けているのです。
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名古屋大学 宇宙地球環境研究所 超学際ネットワーク形成推進室/宇宙線研究部 准教授 三宅 芙沙 先生
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