講義No.16018 法学

誹謗中傷で負った内面の傷 被害者救済のキーワードは「名誉感情」

誹謗中傷で負った内面の傷 被害者救済のキーワードは「名誉感情」

SNSの誹謗中傷

もしあなたがSNSで誹謗(ひぼう)中傷を受けたとしたら、どのような被害が生じるでしょうか。お金を盗られる、体を傷つけられるといった目に見える被害というより、自尊心やプライドといった内面的な価値が深く傷つくはずです。
民法では、人が人間らしく生きるために必要な内面的価値を「人格的利益」と呼び、プライバシーや名誉などもその一つです。SNSでの誹謗中傷は、この人格的利益の侵害として法的な問題になります。

法律は人の内面的価値をどう守る?

人格的利益が侵害されたときの加害者の責任や被害者の救済について規定しているのが、民法の不法行為法領域です。誹謗中傷をめぐる問題で注目したいのが、内面にあるプライドなどを意味する「名誉感情」です。これに対し「名誉毀損」は、他者からの社会的評価の低下を意味します。誹謗中傷によって深く傷つくのは、「自分の内面的価値」である名誉感情です。
2002年、小説のモデルとなった実在人物が、小説中に書かれた表現について、名誉感情やプライバシー侵害を主張した裁判例があります。判決は、小説からモデルとなった人を連想・特定できるのは、本人を知るほんの数十人であっても、見知らぬ人に私生活を知られることや苛烈な表現からは守られるべきと判断しました。
この事件をSNSの問題と照らし合わせると、「フォロワーが少ないから」「鍵アカウントだから」大丈夫とはならないことがわかります。現在のネット上の問題にも影響を及ぼしている判例です。

守るべきものは変わらない

ネット上の問題は、ネット外の事例と切り離されて特別なものととらえられがちですが、表現という意味では地続きです。かつては書くプロであるメディアの問題だったものが、ネットの普及によって誰もが発信者になり、担い手、拡散力、範囲が変わっただけのことです。時代や技術がどう変わろうとも、人の権利や利益あるいはその人の内面的な価値をどう守るかという問題は変わりません。その土台をしっかり築くことが、被害者救済につながるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京経済大学 現代法学部 現代法学科 教授 上机 美穂 先生

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民事法学

メッセージ

高校時代の私は浮いた存在で、うまくいかないこともたくさんありました。でも、人と違っていてもいいのだと今でも思います。そのころに抱いた「法律はなぜ、取り返しのつかない被害が出るまでいじめを止められないのか」という疑問が私の研究の出発点で、この疑問を手放さなかったことが今につながっています。小さな疑問が浮かんだらすぐに解決しようとせず、ゆっくりでも自分で考えてみてください。法律にはわかりやすい正解がありません。だからこそ、自分で考え続けることに意味があるのです。

東京経済大学に関心を持ったあなたは

東京経済大学は、経済学部、経営学部、コミュニケーション学部、現代法学部、キャリアデザインプログラムの4学部1プログラムからなる社会科学系の総合大学です。建学の理念である「進一層」(困難に出会ってもひるまず一層前へ進む)、「責任と信用」を重んじ、実践的な知力を身につけグローバル社会で活躍する人材を育成します。目まぐるしく変化する現代社会でたくましく生き抜く力を養うために、深い教養という土台の上に高い専門性を築く学びを重視。少人数教育のゼミを中心に、現実社会の課題を主体的に考え抜きます。