染色体工学で実験動物を人間に「似せる」 創薬の効果を検証

個人創薬で重要な「ヒト化実験動物」
薬剤の効果は一人一人の遺伝子の型によって変わることがあります。薬が体内で代謝されるときに関わる酵素の働きの強さが異なるからです。より効果の高い、かつ副作用の少ない処方をするために、個人創薬」が注目されています。
その薬を開発する上で重要なのが、実験動物です。しかしながら、マウスなどの実験動物で効果があっても人間では効果がない場合があります。そこで、染色体工学で遺伝子的に人間に似た動物をつくる「ヒト化モデル動物」の研究が注目されています。
染色体を遺伝子の運び屋に
具体的な実験の一つが、染色体を「ベクター」と呼ばれる「遺伝子の運び屋」とし、投入する薬の代謝に関わる機能を持つ遺伝子群をマウスに導入する方法です。マウスの体内で安定させるため、マウスの染色体の維持に必要な部分(セントロメア、テロメア)だけを残し、実験に必要なヒトの遺伝子を集めた「マウス人工染色体ベクター」をつくって導入します。同時に同様の機能を持つマウスの遺伝子を破壊し、ヒトの遺伝子だけが働くようにします。これで、動物実験でも人間の体がその薬剤に対してどう反応するかがわかるのです。
このようにマウスを人間の遺伝子の型ごとに作成すれば、薬剤の効果の違いを細かく見ることができます。最近の研究では、ヒトのある酵素に関わる不活性型の遺伝子を持つマウスを活性型の遺伝子を持つマウスに改変し、多くの型に対応する実験ができるようになりました。
薬剤の精度向上に貢献
染色体工学がゲノム編集と異なる点は、はるかに大きい情報量の遺伝子を動物の体内に導入できることです。一つの遺伝子の周りには、その発現に関わる重要な領域もあるため、染色体スケールで全体の情報を導入することで、より正確な遺伝子機能を動物で再現できるのです。
遺伝子の型はDNA配列の一つの塩基が異なるだけで、薬に対する反応が変わります。すべての人の個性に合わせたマウスができれば、薬剤の精度が上がり、医療の発展への大きな貢献が期待されています。
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鳥取大学 染色体工学研究センター 准教授 阿部 智志 先生
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