舞台美術がつくる、想像力の入り口

演劇の空間、時間をデザイン
演劇は、俳優、演出家、照明、音響、舞台監督など、多くの人が関わってつくられる芸術です。その中で舞台美術と言えば、「舞台上に置かれる大道具や背景」というイメージかもしれません。しかし、舞台美術の役割はセットをデザインすることだけでなく、観客がどこから舞台を見て何を感じるのか、俳優がどのような地面に立つのか、照明や音響とどう関わるのか、ということまで考えて、劇空間全体をつくっていきます。観客が劇場に入り、作品と出会い、そこで味わう体験そのものを空間的、時間的にデザインするのが舞台美術です。
宇宙から地球を見る客席
例えば『わが星』という演劇作品では、地球という星の一生と、団地に暮らす女の子の一生を重ね合わせて物語が進みます。舞台では、団地の部屋の場面があったかと思えば、次の瞬間には広い宇宙から地球を眺めているような視点に移ります。小さな生活空間と広大な宇宙空間を行き来することで、作品の世界が大きく広がっていきます。
この作品では、観客が舞台を360度で取り囲む円形のセンターステージが用いられました。中央の舞台=地球を、惑星やすい星、小さな星々が取り囲むかのように、客席のブロックは小さく分けて配置されています。それによって観客は、自分自身も宇宙のどこかにいて、そこから地球を観測するような感覚を抱きます。
観客の想像力が舞台を完成させる
この舞台では意外な効果も生まれました。素晴らしい照明効果によって空間全体の照度が上がると、向こう側の観客席がふっと浮かび上がるのです。地球や人の最期を見つめて人類の孤独を感じているとき、対岸から舞台を見つめる他者の存在に気づきます。その瞬間、「人は皆孤独だが、同じように孤独を抱える誰かがいる」という、救いのような感覚を体験するのです。
演劇は、舞台上の俳優や美術だけで完成するのではなく、観客がその営みや空間を見て、信じ、想像することで初めて成立します。舞台美術は、その想像力の入り口をつくる重要な役割を担っているのです。
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先生情報 / 大学情報

日本大学 芸術学部 演劇学科 デザイン技術コース(舞台美術) 専任講師 青木 拓也 先生
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