私たちの研究室では、耐災害用ネットワークにドローンを取り入れようとしています。想定しているのは、地震などの自然災害で携帯電話の基地局がダウンし、通信不能となるケース。そうなると、被災エリアの内部と外部の情報伝達ができず、安否確認なども難しくなります。
そこで私たちは、1)内部の人々が持っている携帯端末をD2D※1でネットワーク化し、2)内部に飛ばしたドローンと1のネットワークを接続して、3)ドローンを媒体に外部の基地局との通信を可能にするというシステムを構想し、研究を続けています。1は人、2は地、3は天ということで、「天・地・人ネットワーク」と名付けました。
現在は注力している2のキーテクノロジーとなるのが、AIを活用したドローンの自動飛行で、これはまさにデータサイエンスの領域です。搭載カメラから入力された映像をリアルタイムで解析し、周囲の環境を識別しながら飛行して人を探す。この一連の動作を自律的に行うことができるアルゴリズムを開発中です。ドローンには当然軽さが求められますが、このような高度な処理を、できるだけ軽量化した環境で実現するのは非常に難しく、研究者の腕の見せどころといえるでしょう。これから数年をかけ、システム全体を実用レベルに仕上げる予定です。
近年は道内外で自然災害が多発していますが、地球規模の気候変動がもたらす水害は、今後も頻発することが予想されています。そのため、確実な避難行動などにつながる、より高精度な防災情報が求められています。
私たちの研究室では、おもに河川やダムを対象とした洪水予測に取り組んできました。大雨による河川水位の上昇やダム流入量の増加を物理的に表す数理モデルをつくり、そこに予測雨量を入力してそれらを予測するものです。しかし、思うように精度が上がらず、数年前からは学内の知能情報学分野の小林洋介助教に協力いただき、スパースモデリング※2などの機械学習※3を活用した予測をおこなってきました。降雨量や河川水位,ダム流入量など、膨大な観測情報を収集し、予測精度の向上を図っています。
こうしたデータサイエンスの活用は、防災に限らず、宇宙からロボットまで、現代のあらゆる研究を下支えしています。私たちの研究も、学内の知能情報学分野との連携なしにはあり得ません。分野の垣根を越え、地域が直面する課題を解決するための先端的な研究に触れられるのが、本学で学ぶ大きな魅力だと思います。※2 事象に内在するスパース性に着目して、データ構造などをモデル化する技法。スパース性とは少ない情報から物事やデータの本質的な特徴を決定づける要素はわずかであるという性質を意味します。※3 AIに膨大なデータを比較させ、特定のパターンを見つけさせる手法。このプロセスを経て、新たなデータに対する予測が可能となります。
アルツハイマー病などの神経変性疾患には、細胞内におけるたんぱく質の異常凝集が関与しています。私は10年前から、この凝集を阻害する成分を食用植物から見つける研究を進めてきました。当初は凝集の様子を顕微鏡で撮影し、目視で判断していましたが、現在は画像解析によって数値化しています。サンプルも手では扱わず、ロボットを使って1日に数百種類を正確に評価できるシステムを開発しました。
こうして構築した膨大なデータベースを、企業や他大学がもつ各種データと照らし合わせ、AIを活用した食事と認知症の関係性を解き明かす共同研究が始まっています。解析が進めば、一人ひとりが好きな食材を組み合わせた食事を楽しみながら認知症を予防できる環境が生まれることでしょう。
データを得るのも、解析するのも、情報技術なしでは考えられない時代になりました。本学のシステム理化学科には化学、生物、物理に加え、情報の教員が在籍し、互いに連携しています。研究の現実に即した、全国的にも希少な学科だといえるでしょう。
私たちの研究室では、さまざまな統計データを活用し、持続可能な都市と交通システムをデザインするための研究を進めています。従来は各世帯にアンケート用紙を配布し、1日の行動パターンを答えてもらうパーソントリップ調査など、アナログな手法しかありませんでした。しかし現在ではそれらに加え、スマートフォン、GPS、ETC2.0などから収集したビッグデータをもとに、人や自動車などの動きを非常に高精度で把握することができるようになりました。
人体に例えれば、CTスキャンのようなイメージです。都市内部をスキャンし、現状を把握したうえで最適化を模索していく。具体的には、自動運転バスをはじめとした新しい交通の導入や、公共施設の再配置など、多様な発想で課題を解決していきます。
北海道の小人口化は、全国平均よりも10年先を進んでいます。それはつまり、この土地から、日本のまちづくりの新たなかたちを提案していけるということでもあります。より豊かで幸せなまちの姿を、ともに追い求めてみませんか。