
海洋工学部における教育

海洋工学部は、120年を超える歴史の中で海運業界に優秀な人材を送り出してきました。「海事システム工学科」「海洋電子機械工学科」「流通情報工学科」の3学科では、それぞれ工学的かつ実践的な教育を行い、即戦力として各フィールドで活躍できる知識と技術を養います。船を動かす航海士、機関士の育成だけでなく、宙、海上、海中などの3空間での研究も盛んに行われています。世界初の急速充電対応型電池推進船「らいちょうⅠ」の建造などの先端技術の開発にも取り組んでいます。
他では学べない「即戦力」となる知識と技術を学べることで本学部は、より広範囲な職種と常に高い就職率を両立しています。海運業のみならず、機械・電気・情報産業・建築などと、求人の幅も広く、卒業生は専門的な技術と知識を活かし、多方面での活躍が期待されています。
GPSが使用できない緊急時でも船舶の安全運航を守りたい

本研究室では、外部信号に依存しない船舶の自己位置推定技術の研究を進めています。近年、GPS(GNSS)は高精度かつ安価な航法手段として広く用いられていますが、妨害(ジャミング)や偽装(スプーフィング)に脆弱であることが課題です。そこで本研究では、GNSSが使えない緊急時でも1時間程度の位置推定を可能とするため、安価な慣性計測装置(IMU)と、船舶に搭載されているドップラー速度ログ(DVL)やジャイロコンパスを組み合わせた低廉な航法システムを開発しています。特に、低価格センサ特有の誤差(バイアス)を推定・補正することで、位置推定精度を大幅に向上させる独自手法を提案しています。この技術により、高価な装置を用いずともGNSS非依存の自律航法が実現可能となり、将来の自動運航船における冗長性の高い安全システムの構築に貢献します。

海洋の変動が気象・気候に与える影響の解明

東シナ海から日本南岸を流れる黒潮は、南から暖かい海水を運び、大量の熱と水蒸気を大気に放出しています。黒潮のような海流は、同じ場所を同じように流れていると思われがちですが、実際には、非常にダイナミックに変化しています。例えば、紀伊半島から東海の沖では、黒潮が岸近くを流れたり、南へ200㎞以上大きく蛇行したりします。このようなダイナミックな流路の変動は、冬季の関東域に降雪をもたらす南岸低気圧の経路や夏季の関東域の気温に影響を与えていることが最近の研究からわかってきています。また、黒潮を含む日本周辺の海は、世界の海に比べて、2倍以上の速さで温暖化しています。ダイナミックな黒潮の変動や温暖化が進む日本近海の海が、気象・気候にどのような影響を与えているか、その全貌は明らかになっていません。
本研究室では、他の大学・研究機関の研究者と共同で、船に乗って大気と海洋の観測を実施したり、人工衛星による観測や数値モデルによるシミュレーションのデータを解析したりして、海洋と大気の関係を調べています。また、東京海洋大学の練習船汐路丸では、学生実習として観測を行っており、実習で取得したデータも活用して研究を行っています。

豊かな海・海洋インフラを守る最先端海洋ロボットシステム

私たちの研究室では本学ならではの海洋というフィールドを生かした海洋ロボットの開発を行い、センサーやAIといった技術を組み合わせ、今まで困難だった海中のデータの可視化を行うことで海洋分野における課題の解決を目指しています。
近年の地球温暖化や海水温の上昇にともなう沿岸環境の変化により、藻場の消失被害が増加しています。藻場は、食料生産やブルーカーボンと名付けられた炭素の吸収の場である海藻の森であり、温室効果ガス(CO2)の海底隔離・貯留機能も注目されています。藻場の消失の原因のひとつとして、増えすぎたウニが提起され、いわゆる磯焼けの解決手段のひとつとして、効率の良いウニ調査・駆除手法が求められてきました。そこで私たちはASV(自律航行型無人船、海面を自律航行するロボット)・ROV(遠隔操縦無人潜水船、水中有索遠隔操縦ロボット)で得られた海中画像からAIでウニの海底密度マップを作成しました。この情報を基にウニの生息密度の高い場所でROVを使ってウニを効率よく駆除する手法を開発しました。※1、2
現在は海底のより詳細な画像を高速で収集するためのASVや船舶に曳航される自律型の曳航型水中ロボットの開発を手掛けており、洋上風力発電施設や港湾設備の自律調査システムの研究・開発も行っています。
海洋におけるAI・データサイエンスの活用は始まったばかりです。日本の水産業・海洋インフラ・環境等の諸問題の解決には海洋データサイエンスを駆使した新たな海洋ロボットの開発が必要です。この分野を研究・学習できることが本学の大きな魅力です。
※1 農林水産省「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」(平成30年度~令和2年度:宮城県・水産業分野)の支援により、「ウニと藻場の豊かな漁場再生コンソーシアム」で実施しました。
※2 国土交通省「海の次世代モビリティの利活用に関する実証事業」(令和3年度)の支援で株式会社マリン・ワーク・ジャパンと共同実施しました。
