講義No.15391 外国文学

80年前の演出ノートが語る人間ドラマ

80年前の演出ノートが語る人間ドラマ

舞台作品創作の道跡をたどる80年前の演出ノート

20世紀に入りフランスで「演出家」の時代が本格化すると、演出の詳細が記録に残されるようになりました。劇作家ジャン・ジロドゥの作品の上演についても、演出ノートなどの記録が残されています。
ノートからは、セリフの言い方や俳優の動きの検討など、演出家の試行錯誤の痕跡が読み取れます。演劇学のアーカイブ研究は、こうした記録から、作品づくりやその時代背景などを考察することができます。第一次・第二次世界大戦の間の不安定な時代にあって、演劇は社会にどのようなメッセージを届けていたのかが見えてきます。

敵国への愛を抱いた作家の葛藤

ジロドゥはドイツ文化を専門とする外交官であるとともに、演劇作家としても活躍しました。彼が愛したドイツは、戦争によって祖国フランスの「敵」となりました。そんな矛盾した立場にあった彼の作品には、複雑な感情が込められています。
演劇などの表現メディアは、実社会では言えないことを語る場にもなり、また、政治的に利用される広報手段にもなり得ます。時代が不安定な場合は、なおさらそうです。ジロドゥの作品もまた、そうした時代の空気とどう向き合うかが問われていたのです。彼があえて「言わなかったこと」の中に、今を生きる私たちにも響くメッセージが隠されているかもしれません。

名前がつなぐ、言葉と命の記憶

ジロドゥはもともと小説家でした。『シュザンヌと太平洋』は、無人島に漂着した若い女が語り手です。誰とも話さない日々の中で、言葉を忘れかけたことを自覚したシュザンヌは、自分の深い孤独に気づき、絶望します。そのとき、幼い頃に聞いたある老人の名前をふと思い出します。彼のことを覚えているのは、世界で自分一人かもしれない。「私が、彼が生きていたことを証明できる最後の人間なんだ」と気づいた瞬間、彼女は生きることを選びます。
ふとした言葉が、魂を支えることがあります。言葉が、時代を超えて人と人とをつなぐ――それが、文学や人文学のもつ力なのです。

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先生情報 / 大学情報

宮城学院女子大学 一般教育部 ※2026年4月から学芸学部 英語文化コミュニケーション学科 教授 間瀬 幸江 先生

宮城学院女子大学一般教育部 ※2026年4月から学芸学部 英語文化コミュニケーション学科 教授間瀬 幸江 先生

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演劇学、フランス文学、メディア論

メッセージ

私は高校時代、人とうまく話せず悩んでいました。そんなとき、ラジオで紹介された本を片っ端から読んで、本の中にたくさんの話し相手がいることに気づいたのです。文学は、一人になりたいときにも誰かといられる不思議な世界です。あなたも、日記を書くなど、自分の気持ちと向き合う時間を大切にしてください。志望校選びも、将来のことも、迷っていいのです。あなたには「悩む権利」があります。自分に向き合い、あなたのペースで考え抜いた経験は、きっとあなたの力になります。

先生への質問

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宮城学院女子大学に関心を持ったあなたは

1886年(明治19年)、日本の近代化にあたり教育を自らの手で推し進めようと、「自由と愛」をうたうキリスト教に基づいて誕生した女学校、宮城学院。
そのキリスト教精神、進取・自主の精神は今も変わらずに受け継がれ、学生たちは研究活動、海外交流、イベント、クラブ・サークルなど、積極的なキャンパスライフの中で自立した女性の成長を実現させています。
時代は変わっても、自分の夢に向かってがんばる女性、チャレンジスピリットを燃やし続ける意欲ある女性を、宮城学院は応援します。