極超音速旅客機研究~目に見えないジェット騒音源との戦い~
アメリカ西海岸は日帰り出張となる
太平洋横断は、従来の亜音速旅客機で10時間かかります。もし、マッハ5(音速の5倍)での飛行が実現すれば、太平洋は2時間で結ばれ、映画鑑賞が終わるころには到着です。現在JAXAで、このような極超音速旅客機の研究が進められています。バーチャル空間のみならず、リアルワールドでも世界を密接につなげていく、次世代エネルギーキャリアである水素を燃料とする全く新しいモビリティです。しかしその実現には、これまでの常識が全く通用しない過酷な課題が待ち受けています。その1つがジェット騒音です。
ジェット騒音は「速度の8乗」に比例
航空機の推進機関である「ジェットエンジン」では、ノズルから高速ジェットを噴出することで、巨大な推力(機体を前進させる力)を得ます。噴出されたのちのジェットは、周囲空気との摩擦によりジェット騒音が発生します。ところで、自分の鼻息(典型的な「ジェット」)で目が覚める人はいませんが、空港近隣住民の人々は航空機のジェット騒音に悩まされます。ジェット騒音特有の性質によるものです。ジェット騒音の強さは速度の8乗に比例します。ジェット速度が2倍になれば、騒音は256倍になります。超音速飛行は、騒音との戦いなのです。
「なにもない空間」から音が出る
ジェット騒音は、ジェットと周囲空気との摩擦、つまり「なにもない空間」から発生するので、目に見えません。騒音低減デバイス開発には、ジェット騒音源の位置と規模の把握が必須です。見えない音源を可視化するため、「音」の計測に「光」を用います。音は圧力変動です。ここに光を通すと、極めてわずかに曲がります。これを特殊な光学系で検出し、さらにCTスキャンやMRIで使用されるアーベル変換という数学手法を用いてジェットを「輪切り」にするように音源位置を可視化します。これを突破口に、音源に効果的に作用する手法を開発し、ジェット騒音を低減していきます。さまざまな方法を検討しながら、極超音速旅客機の研究は続けられているのです。
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群馬大学 理工学部 電子・機械類(機械プログラム) 教授 荒木 幹也 先生
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