「パルスパワー」が変える食品や製薬の未来
瞬間的な大電力を活用する
ある物体に電力を加えるとき、直流的な加え方とパルス的な加え方があります。直流的な電力は、電力が持続する点が特徴ですが、大半がジュール熱という熱エネルギーへと変わってしまいます。一方のパルスパワー(パルス大電力)は、1000万分の1秒という非常に短い時間の中にエネルギーが圧縮されるため、電気が熱よりもむしろ「力」として作用する点が特徴です。
「バイオエレクトリクス」という工学と生物、医、薬、食品にまたがる複合分野では、このパルスパワーを使って、DNAやタンパク質などの生体高分子や、細胞内器官に直接的にストレス(力)を与え、医療や製薬、食品の分野に役立てる研究が進んでいます。
菌だけを殺す技術
研究の一つに、食品の殺菌があります。生物を構成する細胞は、細胞膜と呼ばれる脂質の膜で覆われていて、この膜が破壊されると細胞は死んでしまいます。パルスパワーの研究が進んだ現在、細菌の細胞膜だけを狙って電気的な力を加えることができるようになりました。食べ物を腐らせてしまう細菌も細胞で構成されていますから、パルスパワーを使って細胞膜を破壊すれば、細菌を殺すことができるのです。ジュール熱が発生しにくいため、一般的な加熱殺菌と比べて食べ物の風味や質感が損なわれにくく、安全で品質の高い食べ物を提供することができます。
高まる産業界からの注目
もう一つの研究は、細胞内に含まれる成分の抽出です。例えば薬草は煎(せん)じて飲まれますが、煎じるとは、熱で薬草の細胞膜を破壊して中身の成分を抽出するということを意味します。しかし、熱は膜だけでなく中身の成分も壊してしまいます。そこで、パルスパワーを用いて細胞膜だけを破壊すれば、中身の成分は壊さずに抽出できます。
このように、パルスパワーは食品や製薬といった分野を飛躍的に向上させる可能性を持っているのです。産業界からの注目も高く、現在は実用化に向けた試験が進められています。
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先生情報 / 大学情報
熊本大学 工学部 情報電気工学科 教授 勝木 淳 先生
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