途上国の「見えない貧困」を、開発経済学で解き明かす
餓死がなければ貧困ではないのか
途上国の「貧困」というと、餓死などの映像イメージが浮かぶかもしれません。しかし最近の研究で、そこまでではないものの、「見えにくい貧困」が存在することがわかってきました。例えば、アフリカのザンビアの貧困層の家計の調査でわかったのは、1年間の食生活に波があることでした。通常の食生活が送れる日もあれば、そうではない時期もあるということです。
途上国が抱える貧困の課題を経済学の枠組みを使って明らかにする学問領域を「開発経済学」といいます。人々が何を考え、どう行動しているかをつぶさに分析し、課題を洗い出していくのです。
買わざるを得ない高騰したトウモロコシ
ザンビアの貧困層は、主食のトウモロコシを栽培してほぼ自給自足で暮らしています。しかし収穫期直前になるとストックしているトウモロコシが不足するため、炭鉱労働などで現金収入を得て、トウモロコシを買い足します。ですが、この時期にはトウモロコシの市場価格は高騰し、2倍ほどになることもあります。価格が高いため、彼らは量を買い控えるのかというとそうではなく、みんな仕方なく高い価格で購入していました。家計はどうやりくりしていたかといえば、肉や野菜を買うお金をトウモロコシ用に回していたのです。
栄養バランスの偏りが次の課題に
ここで心配になるのがミネラルなどの微量栄養素やプロテイン(タンパク質)の不足です。妊婦の栄養の偏りへの心配や、子どもが成長した時の認知能力の低下も懸念されます。一見すると食べてはいるのに実際は栄養が不足しており、これらが「見えにくい貧困」の実態です。
もちろん、ザンビアにも比較的に裕福な人たちもいます。彼らはお金を持っているため、安い時期に大量に買うことができ、高いトウモロコシに手を出す必要はないこともわかりました。貧しい層は、一定の時期に高く買うしかないという現状があり、貧富の差がますます広がる要因の一つだと考えられます。
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九州大学 共創学部 共創学科 准教授 木附 晃実 先生
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