糖尿病新薬の意外な効果! ビッグデータを活用した薬学研究

ビッグデータを薬学に活用
病院では、電子カルテをはじめ、日々膨大な情報が集められ電子化されています。こうしたビッグデータは医学だけでなく薬学研究にも役立てられています。例えば糖尿病の新薬の効果を探る研究です。新薬は病院に導入され始めると、臨床試験のときよりもさまざまな症状を持つ人が利用するようになりますが、例えば腎臓病や心不全といった合併症を発症した糖尿病患者は、初期の臨床試験の対象にはなっていません。また、臨床試験で集まるのは多くても数千人規模のデータですが、市販後に集まる診療データは数百万人分にも上ります。人数や症状の種類が増えることで、薬の特徴が見いだされやすくなるのです。
新薬がほかの病気にも効く?
診療データの解析が進むにつれて、「SGLT2阻害薬」という糖尿病の新薬が腎臓病や心不全の予防にも効果的なことが確認されています。患者の入院歴や頻度を見てみると、SGLT2阻害薬を使った人は、そうでない人よりも腎臓や心臓の病気にかかって入院する率が低かったのです。心不全などの薬を処方された頻度も、SGLT2阻害薬を服用した人の方が少なくなっています。そのためSGLT2阻害薬には、ほかにも幅広い炎症を抑える効果があるのではないかと、医療現場から注目を集めています。
効果を高める飲み合わせ
ほかの薬と飲み合わせた場合の効果も、診療データから見えてきます。糖尿病患者は数種類の薬を併用しているケースが多いため、飲み合わせの相性を考えることはとても重要です。診療データを基に分析された結果、SGLT2阻害薬と、これまで脂質異常症の治療に使われていた薬を組み合わせて治療効果を高めた事例が多いことがわかりました。飲み合わせや合併症との関係は、薬の開発段階ではわかりません。診療データ解析から得られた観点をもとに、再び臨床試験をして効果を立証することで、新たな予防法や治療法の確立が期待されています。そのための仮説を立てるためにも、ビッグデータの解析が続いています。
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武蔵野大学薬学部 薬学科 教授三原 潔 先生
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