国際社会を動かす「見えない力」

望ましい行動につながる「規範」
「満員電車内で、優先座席に健康な若者が無意識に座り、その前にお年寄りが立っています。若者はほかの乗客に注意されて初めて、そこが優先座席だと気づき、お年寄りに席を譲りました」
これは法律ではないものの、社会に共有された「望ましい行動」が人を動かした例です。こうした道徳は「規範」と呼ばれ、日常生活だけでなく国際社会でも重要な意味を持ちます。条約などの明文化されたルールと違い、規範には罰則がありません。しかし守らなければ非難され、信用を失ってしまいます。
規範形成のメカニズム
法律や条約でルールを定めて、守ることが重視された国際社会において、規範の力を活用したのが20世紀のアメリカです。軍事力や経済力で存在感を示すアメリカは、ソ連が崩壊して冷戦が終結してからは特に、「アメリカの行いは正しい」という規範を諸外国に浸透させました。しかし2000年代にイラク戦争を始め、人権擁護を主張する一方で捕虜を虐待したことが明らかになると、アメリカの信頼は大きく揺らぎました。同じころ、「BRICS」と呼ばれるアジアや南米などの新興国が台頭すると、アメリカ至上主義から脱却した新たな規範が芽生えました。国際政治の研究においては、国同士の力関係や、守ることによる損得といった要素で規範が形成されると考えられています。
規範の力を生かす
現代の国際社会において、規範を作るのは国だけではありません。地球温暖化や感染症など、国単位では解決できない課題が増えたことで、NGOや企業、国際機関も規範の形成に関わるようになりました。例えばフェアトレード商品や、森林保全を行いながら作られた商品に付けられる認証マークは、NGOを中心に作られました。また「SDGs(持続可能な開発目標)」も、規範の力を生かした最たるものと言えるでしょう。罰則を科すルールだけでは限界のある課題に対して、「みんなが望ましいと考える行動」を示すことで、国際社会の行動を促していくのです。
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