食器の色が味わいを変える

食器の色が味わいを変える

赤い器は味の強度をアップ!

食べ物のおいしさは、実は味だけで決まるわけではありません。見た目や匂いなど、さまざまな感覚が影響し合って感じ方が変わります。こうした現象は「クロスモーダル応答」と呼ばれています。そして、食べ物の色や香りだけではなく、食器の色によっても味の感じ方が変わることがわかってきました。同じ料理を白・黒・赤の器に盛り、実際に食べてもらって味の感じ方を調査したところ、多くの人が「赤い器の料理は塩味やうまみが強く感じられる」と答えたのです。

日本料理と器の関係性

日本料理は西洋料理や中華料理と比べて、料理ごとにさまざまな色や形の器を使い分ける文化があります。これは単に見た目の問題だけでなく、料理の味わいを引き立てる知恵が詰まっていると考えられます。これを確認するために、同じ日本料理の炊き合わせを白・黒・赤の器に盛り付けて、味わいの感じ方に影響があるかが調査されました。その結果、学生も料理人も同様に赤い器で最も塩味やうま味を強く感じることがわかりました。一方、「日本料理らしさ」の感覚は年代によって差があり、若い世代と50〜60代では感じ方が異なることもわかりました。日本の食文化に込められた知恵や変遷は、現代の科学の目を通して、あらためてその意味が見えてきています。

医療と食の未来を変える

こうした研究の成果は、私たちの生活の質を向上させるポテンシャルを秘めています。例えば、病院食や介護食など、減塩や脂質、タンパク質の制限が必要な食事は、物足りなさを感じがちですが、器の色を工夫するだけで味わいを強め、食事の満足感を高められる可能性があります。味わいを強めるだけでなく、赤や黒の器を使うと唾液の分泌量も増える可能性が示されています。食べている間の満腹感や、食事と食事の間の腹持ちの良さなど、異なる種類の満足感に視覚がどう影響するかという研究も進んでいます。食材や調味料の量を変えることなく、視覚的な工夫で味わいを広げることで、より良い食と健康の実現につなげることができるのです。

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先生情報 / 大学情報

龍谷大学 農学部 食品栄養学科 教授 山崎 英恵 先生

龍谷大学 農学部 食品栄養学科 教授 山崎 英恵 先生

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食品科学、栄養化学

メッセージ

理系の世界は、「難しそう」と思われがちですが、日々の料理や食事のようにとても身近な事象から宇宙に関わることまで、実に幅広く、奥深い世界が広がっています。もし何かに興味を持ったなら、「自分には向いていない」と決めつけずに、一歩踏み出してみてください。トライアンドエラーを繰り返すなかで、自分の強みや可能性が見えてくるはずです。「これが何の役に立つのか」とすぐに考えるのではなく、まずは純粋な好奇心のままに探究する経験を大切にしてください。その積み重ねが、きっとあなた自身の未来を支える力となります。

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あらゆる「壁」や「違い」を乗り越えるために、「まごころ」を持ち、「人間・社会・自然」について深く考える人を育む。それが、龍谷大学の教育のあり方です。自分自身を省み、人の痛みに感応して、他者を受け容れ理解する力を持つ。人類が直面するリアルな課題と真摯に向き合う。そして様々な学びを通じて本質を見極める目を養い、自らの可能性を広げていきます。