健康の維持・増進に貢献する脂質

「悪者」じゃない脂質の大切な役割
「脂質」は、私たちの体にとって欠かせない栄養素です。脂質の一種の「コレステロール」は、食べた脂質を乳化して消化を助ける「胆汁酸」の材料になります。また、男性・女性ホルモンを作るためにも必要です。健康な人がコレステロールを食事で制限しても、体は必要な量を肝臓で作るため、過度な制限は意味がありません。脂質は体のエネルギー源になるだけでなく、体を正常に保つ大切な成分です。「脂質=悪」というイメージで避けてしまうと、逆に健康を損なうおそれがあります。
脂質代謝で理解できる摂食障害
体重を気にするあまり、必要な食事まで制限してしまい、摂食障害になる人がいます。摂食障害の病態の本質は飢餓状態です。摂食障害になると、まず肝臓に蓄えた糖(グリコーゲン)を使い切り、次に脂肪や筋肉のたんぱく質を分解して糖に変え、エネルギーを確保しようとします。また、肝臓では脂肪を分解して非常用の燃料を作り、脳に送ります。でも食べずにいるとそれにも限界があるのです。脂質が不足すると「痩せる」どころか命の危機に陥り、摂食障害が「死亡率の高い精神疾患」とされる理由となっています。
正しい知識が健康を守る力になる
長野県では、小中高生を対象にした10年間の調査から、摂食障害の増加が明らかになりました。特にコロナ禍では、外出制限と受験のストレスが重なった中学3年生の女子に多く見られました。先行研究では、正しい栄養知識を広めることが予防につながることがわかっています。また、別の研究では、妊娠期のウサギの胎盤に含まれる特殊な脂肪酸には血管をゆるめる働きがあることがわかり、妊娠中の高血圧を防ぐ治療への応用も期待されています。この研究結果は、「脂質=悪」という思い込みをくつがえしてくれます。
このように、科学的な知識を身につけることは、自分の健康を守るだけでなく、誰かの命を救う新しい医療にもつながっていくのです。
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長野県立大学健康発達学部 食健康学科 教授杉山 英子 先生
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