妊婦の栄養状態が子どもの健康に与える影響とは?

妊婦の栄養状態が子どもの健康に与える影響とは?

赤ちゃんのころから生活習慣病は始まっている?

高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、大人になってからの生活だけが原因ではありません。実は、胎内にいるときの栄養状態が、将来の健康に大きく影響することが、1980年代からの研究でわかってきました。例えば、妊娠中に栄養が不足していると、赤ちゃんの体は「栄養が足りない時代に備えるモード」になります。このとき、体に脂肪をためやすくするような働きが強くなることがあります。そのまま大人になると、栄養をとりすぎて肥満や生活習慣病になりやすくなることがあるのです。こうした考え方は、「DOHaD(ドーハッド)」と呼ばれています。2000年代の始めから、世界中でこの分野の研究が進められています。

栄養のとりすぎも赤ちゃんに影響する?

これまでのDOHaDの研究では、母親が栄養不足だった場合が主に注目されてきました。最近では逆に「過栄養」が問題になっています。近年は、妊娠した時点で肥満だったり、糖尿病を持っていたりする妊婦も珍しくありません。では、母親の体に糖が多すぎる状態で赤ちゃんが育ったら、どうなるのでしょうか? 研究では、糖の多い環境で育ったラットの赤ちゃんに、心臓が大きくなる(心肥大)や、精神的な問題が起きやすいことがわかってきました。

食事の工夫で赤ちゃんの健康を守る

こうした「過栄養」のリスクを減らすためには、妊婦の血糖値をコントロールすることが大切です。今の治療法では、血糖値を下げる「インスリン」という薬を使うことが一般的です。でも、「2型糖尿病」というタイプでは、インスリンを使っても効きにくい人もいます。そこで注目されているのが、食事の工夫です。最近の研究では、血糖値を下げる働きを持つ食品の成分として、魚の油に含まれるEPAや、牛乳などに含まれるパルミトレイン酸が効果的だとわかってきました。これらを普段の食事に取り入れたり、サプリメントで補ったりすることで、妊婦の体の栄養バランスを整え、赤ちゃんの健康にも良い影響を与えられるかもしれません。

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実践女子大学 生活科学部 食生活科学科 ※2026年4月より食科学部 食科学科 教授 中村 彰男 先生

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大学は、「正解のない問い」に向き合いながら学ぶ場所です。今は「正しい」とされている知識も、数年後には「間違っていた」とわかることがあります。だからこそ、文系・理系という枠にとらわれず、さまざまな学問に自由に触れてみてください。私自身は、地球科学や分子生物学といった理系分野を専門にしてきましたが、これまでに学んだすべての分野の知識が、今の研究に役立っています。いろいろなことを学んでいく中で、知識と知識をつなげて新しい発想を生み出す力や、自分の意志で生きていく力もきっと育まれるはずです。

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実践女子大学・実践女子短期大学では、創立から120年間一貫して、品格高雅にして自立自営し得る女性の育成を建学の精神とし、実践的な学業を授けることで、社会で活躍する多くの女性を送り出してきました。この建学の精神は女性のより一層の社会的な活躍が求められる現代社会においてとても重要な意味を持っているといえます。そのため、社会を支え発展させる女性を世に送りだすことは本学の責務であると考え、長い伝統で培った全ての環境を活かし全力で女性、学生の支援をしています。