「不幸の手紙」を通して考える、現代の民俗とメディア

SNSで見かける「神の手」
SNS上で、人の手の形をした雲の写真に「幸せになって欲しい人に送ると受け取った人は幸せになる」という文章を添えて拡散しようとする投稿を見たことがあるでしょうか。このような投稿は、SNSが普及する以前にはチェーンメールという形で流行していました。チェーンメールは、受け取った人が同様のメールを複数の人に送るように促すものです。その内容はさまざまですが「一定の時間内に、多くの人にメールを送らなければ不幸になる」と文面で指示する形式を持っています。これは1920年代のアメリカやヨーロッパの英語圏で大流行したチェーンレターがルーツです。
恐怖心が拡散させる
かつて大正時代に海外から入ってきたチェーンレターは日本では幸運の手紙となって独自に進化し、社会的なパニックを引き起こしました。あまりの騒動に、手紙を送った人を警察が取り締まる事態に発展しました。1970年代には不幸の手紙に変じて大流行します。それ以降も姿を消すことはなく、1990年代以降はインターネットメディアへと移行していきました。現代でもSNSでフェイクニュースが善意によって拡散することがあります。それに対して不幸の手紙やチェーンメールは「送らなければ不幸になる」と指示して人間の恐怖心を引き起こし、無限に連鎖し増殖していく仕掛けをメッセージが内包している点が特徴です。
メディアと民俗
ともすると近代になって科学の知識や技術が浸透していくことにより、怪異や迷信は非合理のものとして否定され消えていくと思いがちです。しかしながら実際には新しく生まれたりします。
郵便やインターネット以外にも、写真や電話、放送、出版などのさまざまなメディアが私たちの日常生活には存在します。これらのメディアに関する怪談や迷信、さらには笑い話などに目を向けて学問的に研究すれば、さまざまなメディアに取り囲まれつながり合っている近現代の社会とそこに生きる私たち自身を考える手がかりになるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
