「人に優しい」放射線治療を実現・活用するために

「人に優しい」放射線治療を実現・活用するために

放射線治療の利用率の違い

日本人にとって放射線は、「怖い」「危ない」といったイメージが強いかもしれません。実際、がん治療で活用される放射線治療の利用率は、欧米では6~7割、日本では3割程度と大きな差があります。これは、放射線に対する日本人の心理的ハードルの高さを示していると言えるでしょう。
そんな中、放射線治療業界で話題となっているのが、「FLASH」と呼ばれる超高線量率放射線照射という手法です。医療従事者側も患者側も負担が軽減される、画期的な治療と位置付けられています。

副作用の軽減にも寄与する

従来の放射線治療は、1回に20~30分ほどかかり、患者もその間じっとしていることが求められます。FLASHは、従来の放射線治療よりよりも1000倍以上の極端に高い線量率で放射線を照射することで、腫瘍については通常の治療と同等の効果を得ながら、副作用を抑制可能であることが細胞や動物を用いた実験で確認されています。
放射線治療というと、頭髪などの脱毛などの副作用が心配されますが、ブタを用いた実験では従来よりも脱毛が少なく、その回復も早いとの結果が出ました。現状、FLASH照射による副作用の抑制効果の系統的なメカニズムがまだ解明できていななどいくつかの課題はありますが、技術発展により将来的にはそれもクリアされ、より効果的で、いわば「人に優しい放射線治療」が実現すると考えられています。

放射線をより良く活用していく

しかし、たとえこの治療が実現しても、患者側の意識が変わらなければ活用するには至りません。そこで「怖い」「危ない」というイメージを拭い去るために、市民セミナーなどを通して、定期的かつ継続的に情報発信が行われています。
フラッシュセラピーは、がん治療だけでなく、心臓不整脈、あるいはその他疾病にも効果を発揮すると見られています。私たちはただ放射線を怖がるのでなく、これらの科学的根拠を理解して、適切に活用していくことを考えていく必要があるでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 健康福祉学部 放射線学科 准教授 張 維珊 先生

東京都立大学 健康福祉学部 放射線学科 准教授 張 維珊 先生

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放射線治療学、放射線計測学

メッセージ

私が「学ぶことは面白い」と感じたのは、大学に入ってからでした。専門は放射線学ですが、大学では人文学も社会学も幅広く学び、多様な知識に触れる中でその面白さに気づきました。「学びに遅すぎることはない」、それが経験から得た教訓です。時には「なぜこれを学ぶのか」と疑問に思うこともあるかもしれませんが、それをネガティブにとらえる必要はありません。将来きっと応用できると信じて学び続ければ、より充実した大学生活が送れるはずです。しっかりとした知識があれば、過去も未来も客観的に見つめられるようになります。

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