食べ物(農産物)の「届け方」を考える

農産物流通の歴史と課題
日本の農産物は、長らく「規格」に基づいた流通が主流とされ、戦後の高度経済成長とともに整備が進みました。地方で生産された農産物を、都市部の消費者に大量に安定供給するために、大きさや形をそろえた商品をまとめて出荷する必要があったのです。そこで各地の農協(現在のJA)が、出荷や選別や販売の中心を担う仕組みが作られました。しかし、生産者の高齢化が進み、かつてのような厳密な選別が難しくなってきました。そこで「規格外」の農産物でも販売できる場として注目されたのが「農産物直売所」です。2000年代初頭から、JAが各地に展開していきました。
予想を覆した農産物直売所
農産物直売所は、生産者が自ら農作物を持ち込んで値段を決め、売れ残ったら持ち帰るというシンプルな仕組みです。当初は「消費者がわざわざ直売所に足を運んでくれるだろうか」という懸念もありましたが、結果は予想を超えるものでした。見た目が不ぞろいでも新鮮で安く、味の良い農産物を求めて、都市部からも多くの消費者が訪れるようになったのです。さらに、通常の流通には乗らないような少量生産の品種や、かつて親しまれていた懐かしい農産物に出会えるのも農産物直売所の魅力です。例えば「はっさく」といった果物が、農作物直売所を通じて再注目された例もあります。
農産物直売所のポテンシャル
農作物直売所は単なる販売の場を超えて、地域の交流や体験の拠点としての役割も担い始めています。例えば和歌山県紀の川市の「JA紀の里 ファーマーズマーケットめっけもん広場」では、イチゴ狩り体験や生産者との交流イベントなどが行われており、訪れた人に買い物以上の価値を提供しています。体験を通じて地域の魅力に触れた人が、その地域にふるさと納税をしたり、継続的に訪れたり、移住を考えたりすることもあるのです。農作物直売所は、農業の新たな出口戦略であると同時に、地域と都市をつなぐ大切な架け橋として、可能性を広げ続けていると言えるでしょう。
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和歌山大学 経済学部 経済学科 教授 岸上 光克 先生
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