宇宙の成り立ちの鍵を握るヒッグス粒子

宇宙の成り立ちの鍵を握るヒッグス粒子

質量を与える特別な素粒子

素粒子物理学とは、物質の最小構成要素である「素粒子」と、それらに働く力について研究する学問です。素粒子の中で最後に発見されたのが「ヒッグス粒子」です。この粒子はほかの素粒子に「質量を与える」という特別な役割を持っており、2012年に大型加速器の実験によって発見されました。しかしまだ多くの謎が残されており、最も重要な問題の一つが、ヒッグス粒子が1種類だけなのか、それとも複数種存在するのかです。

暗黒物質はヒッグス粒子の兄弟?

ヒッグス粒子が何種類あるのかという問題は、素粒子物理学が抱えるほかの謎とも深く関係しています。たとえば、宇宙全体のエネルギーの約4分の1を占めるとされる「暗黒物質」の正体は、いまだに分かっていません。もし、別の種類のヒッグス粒子が存在すれば、それが暗黒物質かもしれないのです。さらに、ヒッグス粒子が複数あると、ニュートリノの質量がなぜ極めて小さいのかを自然に説明できる理論もあります。このように、ヒッグス粒子の種類を調べることは、宇宙の構造や物質の起源といった根本的な問題を解明する手がかりとなり、素粒子物理学全体にとって非常に重要なテーマなのです。

姿を変える粒子のふるまいを追う

この目標を達成するために、実験結果と理論を突き合わせていきます。実験では、大型加速器で陽子同士を高速で衝突させ、ヒッグス粒子を生成します。ただしヒッグス粒子はとても不安定で、すぐにほかの粒子に姿を変えてしまいます。観測できるのは変化後の状態なため、「ヒッグス粒子がどの粒子に、どのくらいの確率で変化するか」を理論的に計算し、実験結果と照合します。実験の精度向上に応じて、理論計算の精度も上げていく必要があり、そのために精密な「高次補正」計算が行われています。複数の拡張ヒッグス模型に対して網羅的に計算するのは、コンピュータと手計算を組み合わせた大変な作業です。
こうした地道な作業を通して、私たちは宇宙の成り立ちの謎の解明に一歩ずつ近づいているのです。

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佐賀大学 理工学部 理工学科 物理学部門 准教授 菊地 真吏子 先生

佐賀大学 理工学部 理工学科 物理学部門 准教授 菊地 真吏子 先生

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素粒子物理学

メッセージ

「宇宙はどうやって始まったのだろう?」これは誰もが一度は考える、万国共通の疑問ではないでしょうか。素粒子物理学は、まさにそのピュアな疑問にダイレクトに迫ることができる研究分野です。しかも世界中の研究者とつながりながら取り組める国際的な分野でもあります。新しい実験がどんどん始まり、これから多くの新発見が期待される、とてもホットな時代を迎えています。あなたが持っているその素朴で純粋な疑問こそが、宇宙の謎を解く出発点です。ぜひ関心を持ってほしいです。

佐賀大学に関心を持ったあなたは

佐賀大学は、教育・芸術地域デザイン・経済・医・理工・農の6学部からなる総合大学です。キャンパスは本庄地区と鍋島地区に分かれ、どちらも緑溢れるのどかな環境にありながら、九州の中心地である福岡へJRで約30分で行けるアクセスの良さです。本学は学生生活から就職活動、さらには就職後まで「面倒見の良い」教育を進め、卒業生が愛校心を持ち続ける教育を実践し、学生に選ばれる大学をめざしています。研究面においては、産官学共同研究を中心に、中央の大きな大学にも負けない特色ある研究テーマへの取組みを推進しています。